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更新日:令和4(2022)年7月21日
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多くの自治体で『土』はごみとして回収できない排出困難物に区分されています。特に都市部では約半数の世帯がマンション住まいであり、鉢花や寄せ植えを観賞した後の『土』の処分方法が問題となり、鉢花の購入が避けられる原因ともなっています。この課題を解決する資材として、燃やせる培養土(ココピートを主体とした有機質資材のみで構成された培養土)がホームセンター等で市販されてはいますが、1リットルあたりの価格が80円以上と非常に高く、生育も不十分であるなどの問題があり営利栽培に用いることは困難でした。そこで、焼却可能な資材のみを用いて、営利栽培に利用可能な燃やせる土を開発したので紹介します。あわせて、現地試験に取り組んだ生産者達が中心となって商品化に向けた研究会が発足し、試作・試験販売が開始されたので、その取り組みについても紹介します。
燃やせる土の原材料として腐葉土、ピートモス、ココピートの3種類を検討しました。腐葉土については、落ち葉はごみとして回収されるものの、腐葉土になると見た目が『土』に近いこと、製造過程で土の混入があり得ること、等の理由で回収されない可能性があることから、ピートモスとココピートを選定しました。
燃やせる土の原材料として調整ピートモスとココピートを使用し、培養土として適した配合割合と基肥量について検討しました。
調整ピートモスとココピートを1対1の割合で配合し、微量要素を添加した培養土を用い、基肥としてマグアンプK中粒を培土1リットルあたり2グラムを添加した場合、慣行土と比較して8日程度開花が遅れましたが、草姿が慣行土とほぼ同等に生育しました。基肥としてマグアンプK中粒を培土1リットルあたり3グラムを添加した場合は、株が大きくなる、または、開花が遅れる傾向が見られたので、マグアンプK中粒は培土1リットルあたり2グラムにするとよいと考えられました(表1)。
表1 配合割合の異なる培養土におけるパンジーの生育特性
(PNG:28.8KB)
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注1)供試品種:「パシオ イエローウィズ ブロッチ」
2)播種:平成29年8月22日、鉢上げ:9月12日(3号ポリポット)、調査:11月24日
3)微量要素として微量要素資材FTE(MnO19パーセント、B2O39パーセント、東罐マテリアル・テクノロジー株式会社)を1ポット当たり8ミリグラム添加した
4)慣行土の配合割合は、赤土40パーセント、腐葉土30パーセント、無調整ピートモス20パーセント、パーライト10パーセント
5)基肥としてマグアンプK中粒(N:P2O5:K2O=6:40:6、株式会社ハイポネックスジャパン)を用いた
6)各区の50パーセントの株で第1花開花した日を50パーセント開花日とした
7)50パーセント開花日については各区15株、その他の項目については各区10株調査した
調整ピートモスとココピートを7対3の割合で配合した培養土に、基肥としてマグアププK中粒を培土1リットルあたり3グラム添加した場合、慣行土とほぼ同等の草姿となり、開花日も同等となりました(表2)。
表2 配合割合の異なる培養土におけるペチュニアの生育特性
(PNG:19.3KB)
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注1)供試品種:「バカラブルー(Ver.2)」
2)播種:平成29年12月22日、鉢上げ:平成30年1月23日(3号ポリポット)、調査:4月9日
3)慣行土の配合割合は、赤土40パーセント、腐葉土30パーセント、無調整ピートモス20パーセント、パーライト10パーセント
4)基肥としてマグアンプK中粒(N:P2O5:K2O =6:40:6、株式会社ハイポネックスジャパン)を用いた
5)各区10株調査した
6)慣行土と比較して、Dunnett法により:*有意差あり(p<0.05)、ns:有意差なし
7)50パーセント開花日について、分散分析により有意差なし
調整ピートモスとココピートを1対1の割合で配合した培養土を用いた場合、慣行土と比較して葉数が減少する傾向がありましたが、慣行土とほぼ同等の草姿となりました(表3、写真1)。
表3 配合割合の異なる培養土におけるシクラメンの生育特性
(PNG:18.9KB)
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注1)供試品種:「改良シュトラウス」
2)播種:平成28年12月27日、鉢上げ:平成29年3月27日(3号ポリポット)、6月30日(5号プラ鉢)、調査:12月5日
3)慣行土の配合割合は、赤土40パーセント、腐葉土30パーセント、無調整ピートモス20パーセント、パーライト10パーセント
4)基肥としてマグアンプK中粒(N:P2O5:K2O =6:40:6、株式会社ハイポネックスジャパン)を用いた
5)各区8株調査した
6)分散分析の結果、ns:有意差なし、*:有意差あり(p<0.05)
7)株幅について、Dunnett法により慣行土と比較してns:有意差なし、*:有意差あり(p<0.05)
左:慣行土
右:調整ピートモスとココピートを1対1で配合
写真1 シクラメンの草姿
燃やせる土の価格は、慣行土1リットル当たり18.0円と比較して、無調整ピートモスとココピートの配合割合が、3対7、5対5、7対3、8対2では、それぞれ17.5円、18.4円、19.3円、19.7円であり、約3パーセント減から9パーセント増となりました(表4)。
表4 慣行土及び燃やせる培養土のコスト比較
(PNG:25.3KB)
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注1)試験には調整ピートモスを利用したが、コスト比較は無調整ピートモス1リットルに対し2グラムの苦土 石灰を添加し、pHを調整したものを調整ピートモス同等品として使用した
2)pH調整に利用した苦土石灰は1グラム当たり0.02円以下であったため、単価計算に含めなかった
3)無調整ピートモスはカナダ産6cf(圧縮されたもの)を用い、1袋あたり220リットルに復元するとして計算した
4)ココピートはスーパーココ6ミリメートル(日本地工株式会社)を用い、1袋あたり200リットルに復元するとして計算した
令和2年度に兵庫県立大学の豊田教授らが2,000人以上を対象に実施した「インターネットを活用した鉢物類効用調査結果概要」によると、コロナウイルス感染拡大による外出制限のため「おうち時間」が増加した令和2年の緊急事態宣言発令以降において、35.9パーセントの人が「植物を育てたい」という気持ちの高まりが見られ、「ホームセンターの園芸コーナーや園芸店などに立ち寄ることが増えた」16.9パーセント、「鉢植え植物や苗を購入することが増えた」10.7パーセントとなり、園芸に対する興味が高まっていることがうかがえました。実際に、ホームセンターでは苗物の販売が好調であり、同時に培養土についても「軽い土」が売れたとのことです。
「軽い土」や「燃やせる土」については、これまでもいくつかのメーカーから販売されていますが、販売されている苗物や鉢物は燃やせる土で栽培されているわけではないため、結局、消費者は観賞後に丸ごと捨てることはできません。実際に、生花店やホームセンターには土の処分に関する問い合わせが多く、昨年から使用済み園芸用培土の回収が始まった大田市場では、想定以上の土が持ち込まれているとのことです。
燃やせる土の開発にあたっては、試験開始当初から複数の生産者に現地試験に協力いただきました。また、消費者との交流から特にマンション住民が土の処分に困っていることに気づいた生産者達が中心となり「焼却可能な培土を利用した新しい鉢物商品づくり研究会」が平成30年に発足しました。研究会では商品開発や試作品の販売についての情報交換を行い(写真2、3)、令和3年は7件のシクラメン生産者が12月から試作品の販売を行い、売れ行きは好調で、通常より高単価で取引されました。また、令和4年1月の千葉県フラワーフェスティバルにおいて、燃やせる土で栽培したシクラメンの実物を来場者に無料でお渡しし、自宅で4週間観賞した後の満足度等についてのアンケートを実施したところ、41名中17名から回答がありました。17名中14名が4週間以上観賞できたと回答し、花の美しさ、観賞期間の長さ、処分の手軽さ、総合的な満足度について、1の不満から5の満足まで5段階評価で尋ねたところ、いずれの項目も平均4.8以上と、高い満足度であることがわかりました。燃やせる土というコンセプトそのものに好意的な意見も半数程度の9名から寄せられました。また、試験的に競りで販売したところ、市場担当者の想定以上に高値で取引され、販売店の注目度の高さがうかがえました。今後の生産拡大が期待されています。
農林総合研究センターでは、燃やせる培養土の品質及びコストの改善や、栽培可能な品目の探索等引き続き研究を実施しています。燃やせる土の今後の展開にもぜひご注目ください。
初掲載:令和4年5月
農林総合研究センター
花植木研究室
研究員 室田 有里
電話番号 043-291-9988
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