ここから本文です。
ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農業・畜産業 > 普及・技術 > 千葉県農業改良普及情報ネットワーク > フィールドノート履歴一覧 > フィールドノート令和4年 > ニホンナシ新品種「秋満月」の育成
更新日:令和4(2022)年12月12日
ページ番号:549134
千葉県におけるニホンナシの栽培面積は1,340ヘクタール(2021年、作物統計調査)と全国1位で、本県を代表する作物となっています。このうち、代表的な晩生品種である「新高」は、2003年には全体の約14パーセントを占めていましたが、2019年には8パーセントと大幅に減少しています(平成15年産及び令和元年産特産果樹動態等調査)。これは、果肉が粗いなど果実品質が「幸水」や「豊水」に比べて劣り、消費者の嗜好に合わなくなっていることが一因と考えられます。そこで、千葉県では大果で良食味の晩生品種「千葉K3号」(愛称:「秋満月」)を育成したので紹介します。
育成系統図は図1のとおりで、2001年に「豊水」に「7-7」を交雑しました。なお、「7-7」は「新雪」に「平塚16号」(通称:「かおり」)を交雑して育成した系統です。2007年に初結果し、果実品質が特に優れていたため、2008年から有望系統として詳細な特性調査を始めました。その結果、総合的に有望であると認められたため、2013年に「千葉K3号」と命名して種苗法に基づく品種登録出願を行い、2017年に品種登録されました。また、愛称は公募により「秋満月」に決定しました。
※画像をクリックすると、大きい画像が表示されます。
図1.「秋満月」の育成系統図
育成地(千葉市緑区)における品種特性は以下のとおりです。
樹勢は、成木に高接ぎした場合はやや弱ですが、若木の樹勢は強く樹冠の拡大は容易です。短果枝の着生は多で、「豊水」より多く「新高」並みです。また、短果枝の維持も良好なため、「新高」と同様の短果枝主体の剪定が可能です。
開花始は4月10日、開花盛は4月13日で、「新高」より遅く「豊水」と同程度です(表1)。「新高」を除く主要品種と交雑和合性があります。黒斑病には抵抗性で、黒星病は慣行の赤ナシで使用される薬剤で防除可能です。
着果状況を写真1に示しました。収穫始は9月15日、収穫終は10月4日で「新高」とほぼ同時期です(表1)。果重は733グラムと大果です。糖度は13.2、pHは5.3で、酸味が少なく甘いです。硬度は3.4ポンドで軟らかく、肉質は滑らかで果汁が多く、食味は極めて良好です。日持ち性が常温で28日と長いのも特徴です。生理障害については、心腐れ、生理的裂果、硬化障害はほとんど発生しませんが、みつ症は園地及び年次により発生が認められます。また、「豊水」で見られる傾き果などの変形果や、軸折れによる落果が発生する場合があります。
(JPG:312.5KB)
※画像をクリックすると、大きい画像が表示されます。
写真1.「秋満月」の着果状況
品種 | 開花始期 | 開花盛期 | 収穫始期 | 収穫終期 | 果重(グラム) | 糖度(Brix) | 酸度(pH) | 硬度(lbs) | 食味 | 日持ち性(日) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
「秋満月」 | 4月10日 | 4月13日 | 9月15日 | 10月4日 | 733 | 13.2 | 5.3 | 3.4 | 0.7 | 28 |
「豊水」 | 4月8日 | 4月13日 | 8月29日 | 9月18日 | 521 | 13.0 | 4.8 | 3.6 | 0.2 | 11 |
「新高」 | 4月5日 | 4月10日 | 9月18日 | 10月7日 | 632 | 12.4 | 5.2 | 5.1 | -0.6 | 18 |
注1)開花期、収穫期および食味は2009から2011年の3か年の平均値、その他は2007から2011年の5か年の平均値
2)食味の数値は悪い(-2)、やや悪い(-1)、普通(0)、やや良い(1)、良い(2)の5段階評価の平均値
3)日持ち性は、冷暗な倉庫内に静置した果実について、育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法(2007)に準じて判定した
短果枝の着生や維持が良好なので剪定は容易ですが、新梢発生が比較的少ないので側枝更新は計画的に行います。また、花芽が多いことに加えて果そう葉が垂れ下がるように着生するため、摘果時に果実を確認しにくい場合があります。花芽整理で短果枝の花芽数を減らしておくと作業がやりやすくなります。
生理障害では年によってみつ症の発生が認められます。これまでの現地試験から、土壌が乾燥しやすい園で多く、水田転換園など地下水位が高い園で少ない傾向があります。また、「豊水」でみつ症の発生が少ない園では、「秋満月」でも発生が少ないので、そのような園を選んで栽培します。また、樹勢の弱い樹で発生しやすいので、白紋羽病対策を行うなど樹勢が低下しないように管理します。なお、「秋満月」のみつ症は「豊水」のみつ症に比べ外観からの判別がやや難しいので、選果は慎重に行います。
現在「秋満月」の苗木は、生産組合や市町村を通じて配付の希望があるか確認し、県内の生産者に配付しています。栽培を希望する方は、通知があったときに忘れずに申し込んでください。なお、苗木の生産数に限りがありますので、希望どおりの数量が配付されない場合があります。あらかじめ御了承ください。また、配付される苗木には品種名の表示が義務づけられているため、苗木の表示は「秋満月」ではなく「千葉K3号」となっていますので注意してください。
初掲載:令和4年12月
農林総合研究センター
果樹研究室
室長 押田 正義
電話番号:043-291-0151
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください