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更新日:令和6(2024)年9月30日
ページ番号:696688
土壌は、マイナスの電気を帯びている粘土粒子や腐植を含んでいます。このため、交換性陽イオンであるアンモニウム態窒素、カルシウム、マグネシウム及びカリウムなどを結合します(図1)。
陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity、以下、CEC)とは、土壌が交換性陽イオンをどれだけ保持できるかを示すものであり、土壌の保肥力の指標です。単位は、土壌100g当たりのミリグラム当量(me/100g)です。CECの値は、土壌の種類や有機物施用の状況などによって異なります。
農作物の安定生産を図るためには、土壌中の養分を適正な状態に保つ必要があります。石灰、苦土及び加里の施肥設計は、CECの値と後述の塩基飽和度によって概ね決まります。農作物を生産する上で、土壌のCECを知ることはとても重要です。
図1CECの概念図
塩基飽和度(陽イオン飽和度)とは、土壌のCECのうち、どの程度がカルシウム、マグネシウム及びカリウムで満たされているかを表したもので、下の式によって求めます。
千葉県では、野菜及び花き栽培土壌の塩基飽和度の基準値を表1のように設定しています。石灰、苦土および加里を大量に施用してこの基準値を大きく超えると、土壌のpHが適正域を超えて上昇するなど、農作物にとって育ちにくい土壌になる可能性があります。
表1野菜及び花き栽培土壌における塩基飽和度の基準値
土壌 | CEC(me/100g) | 塩基飽和度(%) |
---|---|---|
火山灰土 | 20 | 65~115 |
火山灰土 | 30 | 55~90 |
火山灰土 | 40 | 45~80 |
砂質土 | 10 | 85~150 |
壌粘質土 | 15~20 | 65~115 |
重粘質土 | 30~35 | 55~90 |
*出典:千葉県主要農作物施肥基準 野菜、花き栽培土壌化学性診断基準より
CECを測定するには、セミミクロショーレンベルガー法を用います。まず、1M酢酸アンモニウム液によって、土壌に吸着されている陽イオンをアンモニウムイオンで交換します。80%アルコール液で余剰なアンモニウムイオンを洗浄後、10%塩化ナトリウム溶液によって、アンモニウムイオンを交換浸出し、このアンモニウムイオンを定量します。この分析法は、専用の器具が必要であり、手順も複雑で、多くの時間を要します。
前述のとおり、CECの分析には手間と時間がかかるため、千葉県では畑土壌の種類別にCECを簡易に推定する方法を明らかにしています。
まず、千葉県の畑土壌は黒ボク土、褐色低地土、褐色森林土の3種に大別され、図2のように分布しています。
火山灰が主な母材であり、リン酸固定力が高く、腐植含量が高いという特徴があります。
黒ボク土では、土色が暗い色になるほど、CECの値が高くなります。このことから、色を「色相・明度・彩度」で表したマンセル値に土色を照らし合わせ、土色からCECを推定することができます(表2)。なお、この判定の利用は、黒ボク土の露地畑に限られます。
土色の判定は、午前中の自然光下で直射日光をさけ、湿土状態(含水率40%程度)で色見本帳などを見ながら行います。
表2黒ボク土における土色によるCECの推定
色相 | 明度/彩度 | 推定値CEC(me/100g) |
---|---|---|
10YRまたは7.5YR |
1.7/1 | 47.5 |
10YRまたは7.5YR | 2/1 | 37.5 |
10YRまたは7.5YR | 2/2 | 30.0 |
10YRまたは7.5YR | 2/3 | 30.0 |
10YRまたは7.5YR | 3/2 | 27.5 |
10YRまたは7.5YR | 3/3 | 27.5 |
褐色低地土は、自然堤防、扇状地等の地下水位が低い沖積低地の土壌です。腐植含量とCECの関係が黒ボク土ほど明確ではありませんが、腐植とともにCECを高める粘土の含量を表している土性によって推定することができます。(表3)
なお、土性は、粘土細工(少量の水で土を湿らせて、手のひらで練り合わす)から判定します。目安は以下のとおりです。
(1)SiCL、CL、Lはマッチ棒ぐらいの太さになる。
(2)SLは鉛筆ぐらいの太さになる。
(3)LS、Sは棒状にならない。
表3褐色低地土における土性によるCECの推定
土性 | 記号 | 推定値CEC (me/100g) |
判定方法 |
---|---|---|---|
シルト質植壌土 | SiCL | 20.0 | マッチ棒くらいの太さになる |
植壌土 | CL | 20.0 | マッチ棒くらいの太さになる |
壌土 | L | 20.0 | マッチ棒くらいの太さになる |
砂壌土 | SL | 17.5 | 鉛筆ぐらいの太さになる |
壌質砂土 | LS | 12.5 | 棒状にならない |
砂土 | S | 7.5 | 棒状にならない |
褐色森林土は房総丘陵に分布し、海底で堆積した泥岩や砂岩が母材となっています。
腐植含量や土性とCECの関係は明確ではありません。しかし、仮比重(注1)が大きいほどCECは小さくなる傾向があります。
その関係から、仮比重を使った下記の式からCECを推定することができます。
(注1)土壌の仮比重の求め方:仮比重は、単位容積当たりの土壌の固相重量のことです。測定する場合は100mLの採土管で現地の土壌を採集し、105℃で24時間乾燥後、土壌の重さ(g)を100(mL)で除します。
もう一つの方法として、pH、EC、交換性陽イオン含量の測定値がある場合は、下記の式によりCECの推定ができます。ただし、pHが5.0以下の土壌では誤差が大きくなりやすいので注意しましょう。
(注2)交換性陽イオンの測定値(mg/100g)から当量(me/100g)への換算は、「3.塩基飽和度(陽イオン飽和度)」で記述した式と同様に、CaOを28.04、MgOを20.15、K2Oを47.10で除します。
(注3)pHはH2Oでの測定値、ECの単位はmS/cmです。
千葉県では農耕地土壌の実態調査を継続的に行っています。ここでは、9巡目に当たる2017~2020年の調査結果から、畑土壌におけるCEC値の実態を明らかにしました(図3)。畑土壌は大きく黒ボク土と「黒ボク土以外」に分け、「黒ボク土以外」はさらに砂質土(砂壌土を含む)、壌質土及び粘質土に分けて集計しました。
CECの平均値は、黒ボク土が32.3me/100gと最も高く、次いで黒ボク土以外の粘質土が25.8me/100gと高く、壌質土の24.4me/100g 、砂質土の11.9me/100gの順となりました(図3の×印)。各土壌におけるCEC値のばらつき状況も図3に示しましたので、参考にしてください。
これらの結果は、県内畑土壌のCECを推定する上で、目安になると考えます。
図3県内畑土壌の表層及び次表層(第2層)におけるCECの実態 (注1)(注2)
(注1)CEC値のばらつき状況を箱ひげ図で示した。箱中にサンプルの半数が分布することを示す。箱中の横線が中央値を、×印が平均値を示す。ひげは最高値と最低値を示し、ひげ上部の白丸は外れ値を示す。
(注2) 黒ボク土と「黒ボク土以外」に分けて集計し、「黒ボク土以外」はさらに砂質土(砂壌土含む)、壌質土、粘質土に分けて集計した。なお、黒ボク土は全て壌質土であった。
CECは、分析の度に値が大きく変動する項目ではありませんが、畑地を対象とした施肥設計において、塩基飽和度を求め、石灰、苦土及び加里の施用量の決定する重要な役割を果たします。CECの分析法は、専用の器具が必要であり、手順も複雑で、多くの時間を要するという課題がありました。しかし、現在は簡易推定法が開発されており、さらに、土壌の種類により一定の範囲に収まることを紹介してきました。農業資材の有効活用と経費節減という視点からもう一度土壌診断とCECの重要性に注目してみてはいかがでしょうか。
なお、本資料図3のデータは、2017~2020年の国庫「関東農政局・農地土壌炭素貯留等基礎調査事業(農地管理実態調査)委託事業」及び環境農業推進課事業「土壌保全・省資源型施肥体系推進事業」によって得られたものです。
参考文献
1)千葉県・千葉県農林技術会議(1999)畑土壌の陽イオン交換容量・CECの簡易推定法と土壌診断の進め方
2)千葉県(2019)主要農作物等施肥基準
初掲載:令和6年9月
担い手支援課
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主席普及指導員
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