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更新日:令和6(2024)年12月20日

ページ番号:720751

ナシ「豊水」剪定枝の加温による花粉採取方法の検証

1.はじめに

令和5年に中国で火傷病が発生し、ナシ花粉の輸入が停止したことにより、県内ナシ産地ではナシ結実確保に向けた対策が急務となっています。そこで花粉採取専用樹が足りていない状況を想定し、ナシ「豊水」の剪定枝を加温することで、授粉作業前に花粉を早期に採取する方法について検証を行いました。

2.剪定枝の採取時期や地域が花芽の開花率に与える影響について 

令和6年2月上旬と3月中旬に、八千代市、一宮町、いすみ市の現地ナシ園から剪定した「豊水」の一年枝を採取しました。その後、採取した枝を水を張った容器に入れ、水稲用の育苗器を用いて約20℃で加温しました(写真1)。なお、予備試験により、正常な開花を促すためには光が必要であることが明らかになったことから、本調査では、通常は暗所である水稲用の育苗器内にLEDライト(12時間明期/12時間暗期に設定)を設置しました。

写真1LEDライトを設置した水稲用の育苗器を用いて剪定枝を加温する様子の写真
写真1LEDライトを設置した水稲用の育苗器を用いて剪定枝を加温する様子

その結果、3月中旬に採取した剪定枝のほうがより多くの花芽が開花する傾向が見られました。特に八千代市から採取した剪定枝の開花率が89%に達しました(図1)。一方、一宮町やいすみ市の剪定枝では、3月中旬の採取にもおいても、花芽の開花率は38~39%にとどまりました。

この違いは、開花に必要とされる低温積算時間が影響したと考えられました。2月末時点で、八千代市では1,200時間の低温積算時間が確保されていたのに対し、一宮町やいすみ市ではそれぞれ、1,000時間、800時間と短かったことが要因と考えられました。

なお、いすみ市では3月中旬よりも2月上旬の開花率が高い結果となりました。これには、いすみ市では2月上旬に剪定枝を採取した樹の樹齢が約10年と若かったのに対して、3月中旬に採取した樹の樹齢が約40年と老木だったことが影響した可能性が考えられました。

図1採取時期と地域が早期加温したナシ剪定枝の花芽の開花率に与える影響の図(JPG:717.3KB)
図1採取時期と地域が早期加温したナシ剪定枝の花芽の開花率に与える影響

3.鮮度保持剤が花粉の採取量に与える影響について 

令和6年3月中旬に八千代市、一宮町、いすみ市のナシ園から剪定した「豊水」の一年枝を用いて、加温時に枝を入れる容器の水に鮮度保持剤(美咲プロ50倍希釈液、OATアグリオ株式会社)を使用した効果を検証しました。

その結果、鮮度保持剤を使用することで加温中の水の腐敗を防ぎ、得られる花粉重が増える傾向が確認されました(図2)。なお、自然開花時にナシ(品種「長十郎」)の一年枝200本から採取できる花粉重の目安は、粗花粉で32グラム、純花粉で6グラムとされています(参考文献参照)。

今回の試験では、粗花粉について八千代市のみ、目安を上回る量を採取できましたが、純花粉については、全ての地域で目安を下回り、採取量は1割から7割にとどまりました。

なお、八千代市において粗花粉の採取量が多かったにも関わらず純花粉の採取量が少なかった理由としては、早期加温による開花では、自然開花と比較し、葯は形成されるものの内部の花粉が十分形成できていなかった可能性が考えられました。また、品種(豊水と長十郎)の違いが影響した可能性も考えられました。以上については、今後も検証が必要です。

一方、本調査で得られた花粉の発芽率は、いずれも70%以上と良好だったことから、十分に授粉に使用できると考えられました。

図2 3月中旬に採取したナシ剪定枝(豊水)の早期加温時に鮮度保持剤を使用した場合の花粉採取重への影響の図

図2 3月中旬に採取したナシ剪定枝(豊水)の早期加温時に鮮度保持剤(美咲プロ50倍希釈液)を使用した場合の花粉採取重への影響

4.まとめ

令和6年の気象条件において、県北の八千代市では、3月中旬に採取した剪定枝を約20℃で早期加温することで、自然開花時に採取できる花粉量の目安の6~7割の純花粉を採取することができました。また、加温時に鮮度保持剤を使用することの有効性も確認されました。

一方、県南の一宮町やいすみ市では、十分な花粉を得ることはできませんでした。本方法については引き続き検証が必要ですが、一定量の花粉を採取するには、低温積算時間が1,200時間に到達していることが一つの目安になると考えられます。また、自然開花時期に近づけば近づくほどより多くの花粉が採取できると考えられました。なお、任意の地点における2月末までの低温積算時間は、農研機構が公開している「果樹アプリ低温積算」(https://fruitforecast.jp/)を使って調べることができます。本方法の実施を検討する際には、是非ご活用ください。

花粉樹の育成途中等で「ナシ花粉の確保が難しい場合」や、「早期に花粉を準備して作業分散を図りたい場合」は、本方法によるナシ花粉の確保についてご検討ください。「豊水」のS遺伝子型はS3S5であるため、「豊水」や「あけみず」の授粉には使用できませんが、それ以外の主要品種には利用可能です。また、本調査では、水稲用の育苗器を用いて加温を行いましたが、こうした装置の利用が難しい場合でも、空きハウスや、屋内の日当たりの良い窓際等を活用すれば、本方法の応用は可能と思われます。ただし、自然光を利用する場合、日中に温度が上がりすぎることがあるため、温度管理に注意してください。

5.参考文献

「なしの受粉用花粉の確保について」(千葉県・千葉県農林水産技術会議)(PDF:478.6KB)

「受粉用なし花粉採取マニュアル」(千葉県・千葉県農林水産技術会議)(PDF:1,753.3KB)

 

初掲載:令和6年12月
担い手支援課
専門普及指導室
上席普及指導員 髙橋 真秀
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お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

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