食品残渣等を活用した飼料費低減の取組(食品副産物の有効活用によるコスト低減)
1.はじめに
令和4年のロシアのウクライナ侵攻等に端を発した穀物価格の高騰と急速に進んだ円安により配合飼料価格が高騰し、更に秋以降、輸入粗飼料価格も大幅に高騰し、酪農経営は大きなダメージを受けました。
飼料コストの増加は、酪農経営の収益構造を著しく悪化させ、購入粗飼料に頼る経営では、キャッシュフローレベルで黒字の確保が困難になる事例も見られました。このような厳しい状況の中、県下の酪農経営では、自給飼料生産の拡充や地域資源の有効活用など様々な取組が行われています。飼料コスト低減に向けた対策として、食品副産物等の有効活用を進め、飼料費の節減を図った事例も多く見られました。
牛群検定を活用して牛群をモニタリングしながら複数の食品副産物を有効活用し、多くの酪農経営が低迷した令和4年に乳量向上と酪農所得の向上を実現した事例を紹介します。
2.経営の概況と食品副産物の利用概況
(1)経営の概況
表1に経営の概況を示しました。
船橋市のA牧場は、駅から徒歩5分程度の市街地に立地しています。牛舎施設は住宅に囲まれており、現在、自給粗飼料は生産していません。
労働力は夫婦2名と酪農ヘルパーのみです。搾乳ユニット搬送レールを備えた対尻式の繋ぎ式牛舎と乾乳牛舎で経産牛を35頭飼養しています。給餌はTMRを混合調製して給与しています。
表1経営の概要
経産牛飼養頭数 |
35頭 |
牛舎施設 |
対尻式繋ぎ牛舎(30頭収容)、 乾乳牛舎 |
糞尿処理 |
固液分離により糞は直線型発酵処理施設と堆肥舎で堆肥化して耕種農家に供給 液分は公共下水道に排水 |
自給粗飼料 |
作付けなし(宅地化により以前利用していた借地は返還) |
労働力 |
経営主夫妻2名、酪農ヘルパー |
食品副産物の利用 |
豆腐粕、醤油粕、ビール粕、パイナップル粕、小豆皮、ささげ豆粕、酒粕 |
(2)食品副産物の利用
食品副産物については、令和元年から豆腐粕の本格的な利用を開始しました。令和3年には、酒粕、醤油粕、パイナップル粕の利用を開始し、令和4年には、小豆皮とビール粕の利用を開始しました。更に令和5年には、ささげ豆粕の利用を開始し、現在計7種類の食品副産物を活用しています。
現在利用している食品副産物のうち5種の分析値を表2に示しました。飼料成分表の数値と比較して、特に酒粕の粗蛋白質が半分以下の数値となっています。A牧場以外の他の分析事例でも同様の傾向にあり、飼料計算に当たっては注意が必要です。
表2利用している食品副産物の分析値と年間利用量(令和5年11月サンプリング)
食品副産物 |
水分(%) |
粗蛋白質(%) |
粗脂肪(%) |
総繊維(%) |
粗灰分(%) |
年間使用量 |
豆腐粕 |
75.7 |
7.9 |
2.4 |
11.5 |
1.3 |
約20トン |
豆腐粕(乾物) |
- |
32.6 |
9.8 |
47.2 |
5.3 |
- |
パイナップル等粕 |
84.3 |
1.0 |
0.1 |
9.6 |
0.8 |
約120トン |
パイナップル等粕(乾物) |
- |
6.6 |
0.7 |
61.1 |
4.8 |
- |
小豆皮 |
68.7 |
6.1 |
0.0 |
17.5 |
1.2 |
約30トン |
小豆皮(乾物) |
- |
19.6 |
0.0 |
56.0 |
3.8 |
- |
ささげ豆粕 |
53.1 |
10.9 |
0.0 |
13.6 |
1.8 |
約40トン |
ささげ豆粕(乾物) |
- |
23.3 |
0.0 |
29.0 |
3.9 |
- |
酒粕 |
45.9 |
8.1 |
0.1 |
1.6 |
4.6 |
約30トン |
酒粕(乾物) |
- |
14.9 |
0.2 |
2.9 |
8.4 |
- |
写真1パイナップル粕
写真2小豆皮(あん粕)
3.食品副産物の活用と収益構造の変遷
A牧場において食品副産物の活用は、今回の飼料価格高騰以前に開始しています。一時使用していたゴマ油粕の給与を中止するなど曲折はありましたが、コンサル獣医師やエコフィードに関するコンサルタントの支援を受け牛群の健康を維持しながら給与量を増やしました。表3に示したように、令和3年は一時所得が落ち込みましたが、飼料価格が高騰した令和4年には、乳量の増加と相まって大幅に所得の向上を図ることができました。
表3 A牧場における令和2年を100とした経営成績の変遷(乳飼比を除く)
- |
令和2年 |
令和3年 |
令和4年 |
酪農部門年間総所得 |
100 |
72.5 |
171.5 |
経産牛1頭当たりの年間産乳量 |
100 |
95.2 |
108.0 |
購入飼料費 |
100 |
104.2 |
122.4 |
乳脂率3.5%換算生乳100kg当たり生産原価 |
100 |
109.2 |
92.4 |
家族労働時間 |
100 |
112.5 |
112.5 |
乳飼比(育成・その他を含む) |
53.3 |
56.7 |
53.7 |
4.食品副産物活用の評価と課題
(1)経営的な評価
表3の経営成績の変遷にも示したように、食品副産物の有効活用により所得の向上を実現しました。購入飼料費の総計は上がっていますが、乳量は向上しており、生乳100kg当たりの生産原価としては、飼料高騰の環境下において大幅な削減を実現することができました。但し、夏場において乳脂率の低下も起こっており、暑熱対策については改善の余地を残しています。
(2)ハンドリングの問題
食品副産物は、配合飼料や流通乾草と異なりフレコンバックなどの荷姿で流通しているため、活用に当たってはハンドリングの問題を解決しなくてはなりません。
A牧場においては、中古のフォークリフトを購入して積み下ろしの省力化を可能にしました。また、入口が狭く大型トラックの進入が困難なため、新たなゲートの設置と進入路の造成を行いました。これらの対応により、輸送コストの削減や新規利用の場合に有利な条件での取引を可能にしました。
(3)牛群検定の有効活用
本経営において経営基盤の強化を実現することができた大きなカギが牛群検定です。牛群検定を実施しているため、牛群のモニタリングが可能となり、適宜軌道修正することができました。食品副産物の利用に精通した獣医師コンサルの指導と牛群検定の実施がうまく噛み合い成功に至ったものと評価できます。
(4)労力の問題
飼養頭数に変化はないものの表3に示したように家族労働時間は、令和2年に比べて12%強増加しています。これは食品副産物の利用増加により、飼料調整に関する手間が増えたことに起因しています。食品副産物の利用に限らず、自給飼料生産の拡充など飼料コスト低減のためには、ある程度、労働時間の増加はやむを得ないものであると考えます。年間総所得の大幅な向上を鑑みれば余りあるものと考えますが、作業内容の見直し等で労働負荷の軽減を図っていくことは今後の課題です。
食品副産物の利用により家族労働時間は増加しましたが、作業労働の軽減に以前から取り組んでおり、搾乳ユニット搬送レールの導入は、労働負荷と時間の軽減に貢献しています。更にクラウド牛群管理システムを導入して繁殖管理を行うなど省力化にも務めています。
初掲載:令和6年9月
東葛飾農業事務所改良普及課
北部グループ
主任上席普及指導員 渡辺 博剛
電話番号:04-7162-6151
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