がん先進治療開発研究室
がん先進治療開発研究室では標的治療薬の開発が進んでいないがんに対する新たな治療薬候補の開発およびがん診断に使える新たなマーカーの探索に関する研究を行っています。本研究室は古くは生化学研究部の流れを汲み、生化学・分子生物学の手技を駆使して、小児がんの一つである神経芽腫の発生原因となる遺伝子異常の発見および発がんメカニズムにおける遺伝子機能の解明に取り組んできました。2019年より高取が室長となり、新たながん先進治療開発研究室をスタートさせています。現在は室長1名、研究員2名、特任研究員1名、客員研究員1名、研究補助員4名、大学院生3名が所属し、AMED支援の研究課題2件を中心に研究を進めています。
<研究室が目指すところ>
神経芽腫を含む小児がんは症例数が少ないこともあり、がん研究の中では発がんメカニズムの理解も治療法開発も大人のがんに比べて十分ではありません。本研究室では日本の神経芽腫および小児肝腫瘍の検体保存・配布を行うバイオバンク事業の一端を担っていることもあり、日本小児がん研究グループと連携しながら、小児がんの発がんメカニズムを明らかにする研究をさらに推進していきます。
また、これまでのがん分子標的治療薬開発は、受容体型チロシンキナーゼなどの特異的阻害剤を中心に進んできました。一方で、小分子化合物では標的としにくい分子、いわゆるundruggableな標的に対する薬剤開発は遅れているのが現状です。さらに小児がんや希少がんと呼ばれる症例数の少ないがん種は、治療薬開発研究が少ないこともあり、未だに分子標的治療薬がみつかっていないアンメットメディカルニーズが高い疾患となっています。このような現状を打破するべく、我々はundruggableな標的の中でも特に核内で働くがん遺伝子に注目し、それらをdruggableな標的に変えるべく研究に取り組んでいます。
治療法開発とともに進めているのが診断マーカーの探索です。疾患を早期に発見し、標的治療薬の効果を正しく見極めるための手かがりとなる物質を体液中から検出する検査法はリキッドバイオプシーと呼ばれています。我々は、これまでのリキッドバイオプシーでは捉えることが難しい微量の物質を少量の体液中から検出する方法を研究しています。がんの研究所としては珍しく、我々の研究室は化合物合成を行う施設を有しています。化合物の合成・分析から生体における生物学的評価まで一貫して行うことで、効率よく研究を進めることができます。
メンバー
室長 | 高取 敦志 |
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プロジェクト紹介
1. AMED ムーンショット型研究開発事業(目標7)「ミトコンドリア先制医療」
ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患を引き起こすことが知られています。そこで、ミトコンドリア機能低下を早期に検知し、食事、運動、薬による早期介入・治療を実現させることを目標に、2021年よりムーンショット型研究開発事業の一つである「ミトコンドリア先制医療」がスタートしました。がん先進治療開発研究室はこのプロジェクトの中の「血中ミトコンドリアDNAバイオプシー開発」を担っています。少量の体液中に含まれる微量のミトコンドリアDNAを検出する方法を開発することにより、自分のミトコンドリアの状態を知ることができる簡便な検査法につなげるのがねらいです。実現できれば、ムーンショット型研究開発が目指している我が国発の破壊的イノベーションの創出につながるものと期待しています。
HLAの機能喪失の程度を定量化し、リンパ球浸潤の程度も加味して免疫状態を4つに分類した。分類1はリンパ球浸潤が多いもの、分類2はB2M遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、分類3はHLAクラス1遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、分類4はそれ以外とした。分類4ではHLAクラスI遺伝子の機能喪失変異はないものの、HLAクラスI遺伝子の発現が低下していた。
関連論文
Kitagawa Y, et al., Scientific Reports, 9:11346, 2019. 高取 敦志、他. 医学のあゆみ, 281(12),1135-1139, 2022.
2.AMED 難治性疾患実用化研究事業 「変異mtDNA標的薬剤による変異ミトコンドリア除去治療法開発」
ミトコンドリアは細胞のエネルギーとなるATP産生の場となる重要な細胞内小器官です。ミトコンドリア内にはATP産生に関与する呼吸鎖複合体サブユニット遺伝子をコードするDNA (mtDNA)が存在する。mtDNAに起こる変異と変異/正常mtDNA相対比の上昇が、ミトコンドリア病、がん、その他の疾患に深く関わることが明らかになっており、変異mtDNA の割合を減少させることで症状改善、発症予防、QOL 向上等の効果が期待されます。本プロジェクトでは、ミトコンドリアDNA変異を標的とし、変異DNAのコピー数を減少させる薬剤の開発を目標とし研究を進めています。
図 ロングリードシーケンス技術によるDifferential Transcript Usage (DTU)の検出手法
関連論文
Takenaga K, et al., Scientific Reports, 11(1):13302, 2021.
Koshikawa N, et al., Cancer Science, 112(6):2504-2512, 2021.
Koshikawa N, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 576:93-99, 2021.
Takenaga K, et al., BMC Mol. Cell. Biol., 22(1):52, 2021.
最近の主な業績
- Ota Y, et al. Targeting anaplastic lymphoma kinase (ALK) gene alterations in neuroblastoma by using alkylating pyrrole-imidazole polyamides. PLoS One, 16(9):e0257718, 2021.
- Takatori A, et al. NLRR1 is a potential therapeutic target in neuroblastoma and MYCN-driven malignant cancers. Frontiers in Oncology, 25;11:669667, 2021.
- Krishnamurthy S, et al. Targeting the mutant PIK3CA gene by DNA-alkylating pyrrole-imidazole polyamide in cervical cancer. Cancer Science, 112(3):1141-1149, 2021.
- Yoda H et al. Direct targeting of MYCN gene amplification by site-specific DNA alkylation in neuroblastoma. Cancer Research, 79(4):830-840, 2019.
- 高取 敦志、竹永 啓三.ミトコンドリアゲノム標的薬剤によるミトコンドリア関連疾患の治療法開発.医学のあゆみ,281(12),1135-1139, 2022.