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更新日:令和4(2022)年5月25日

ページ番号:7371

初夏の訪れ告げる「房州びわ」の収穫盛期予測法の開発

1.はじめに

初夏の訪れを告げる「房州びわ」は、南房総地域(南房総市、館山市、鋸南町)で栽培され、贈答用、個人消費として人気があります。最近はビワ狩り、直売などを行っている観光果樹園での需要も高まり、収穫最盛期には観光客で賑わいを見せます。

ビワは、収穫期間が短く、収穫適期を過ぎると生理障害や落果が発生しやすいとともに、長期間の貯蔵には不向きな特性があります。そのため、生産者は「果実の損失を抑えるために収穫適期を把握し、収穫・出荷の人手を手配したい」、市場関係者や小売業者は「販路や売り場を確保して効率的に販売したい」、消費者は「お中元の手配や観光の計画を立てたい」という要望があり、それぞれが収穫期(出荷期)の予測情報を望んでいます。

熟練の生産者は、摘果・袋かけ時の果実の発育状況から、収穫期の目安を把握しています。しかし、この方法は、経験が少ない生産者には難しく、また、果実の成熟は収穫前までの気象の影響を受け、袋がかかっているので果実色が確認しにくいために、正確に予測することは難しいといった問題があります。

そこで、千葉県農林総合研究センター暖地園芸研究所では、果実の発育程度と気温観測データから、誰でも正確に収穫盛期を予測できる方法を開発したので、ご紹介します。

2.ビワの収穫盛期予測法

この方法では、露地栽培の主力品種である「大房」と「田中」の収穫盛期予測が可能です。まず、日当たりの良い主枝を1樹から1枝、3樹選び、4月1日に両品種の果実(幼果)の縦径(果実の果梗部から果頂部まで)を30果(1樹10果×3樹あるいは1樹15果×2樹)測定し(写真1,2)、びわ2号袋(小林製袋株式会社)で1果ずつ袋をかけます。次に、4月2日から4月30日までの平均気温を測定します。これらを表1に示したそれぞれの品種に対応した予測式にあてはめることで、収穫盛期(30果中15果が収穫できる日)が計算できます。平年値(昭和56年から平成22年)を例に計算すると、「大房」は、縦径が1.86センチメートルで、平均気温が14.28度(アメダス館山)の場合、収穫盛期は6月8日と予測することができます。「田中」は、縦径が1.92センチメートルで、平均気温が14.28度(同上)の場合、収穫盛期は6月16日と予測することができます。

幼果の縦径は各圃場で測定する必要があります。気温は、南房総地域の場合、地域内の気温差は小さいので(表2,3)、アメダス館山(気象庁館山特別地域気象観測所)の公表値(ホームページなど)を利用できます。

この収穫盛期予測法は、房州枇杷研究会、JA安房、安房農業事務所の協力により、南房総地域の各圃場において、予測値と実際の収穫盛期(実測値)を比較検討したところ、両者の誤差は小さく、実用可能であることが明らかになりました(表2,3)。

表1「房州びわ」の収穫盛期予測式

品種

収穫盛期予測式

補正R2

予測誤差

(日)

大房

y=-19.8x0-2.57x1+142.8

0.820

2.0

田中

y=-17.3x0-2.36x1+144.2

0.689

2.5

注1)y:4月1日を起算日(1)とした収穫盛期までの所要日数
注2)x0:4月1日時点の幼果の縦径(センチメートル)
注3)x1:4月2日から4月30日までの平均気温(度)
注4)予測誤差:Σ(予測値-実測値)2/nの平方根

写真1実の縦径を測定している様子


写真2果実に袋を掛けた様子

表2「大房」の収穫盛期予測式の現地実証試験結果(平成26年度)

圃場名

4月1日の

平均気温
(度)

収穫盛期

幼果の縦径

実測値

予測値

誤差

(センチメートル)

南房総市青木

1.73

13.8

6月11日

6月12日

1日

南房総市南無谷

1.92

13.7

6月9日

6月8日

-1日

南房総市南無谷

2.07

13.5

6月4日

6月6日

2日

南房総市岩井

1.98

13.8

6月4日

6月7日

3日

南房総市原岡

1.77

13.6

6月11日

6月12日

1日

南房総市豊岡

1.57

13.3

6月13日

6月16日

3日

南房総市八束

1.52

13.4

6月17日

6月17日

0日

館山市沼

1.60

13.9

6月13日

6月14日

1日

館山市山本

1.79

13.3

6月10日

6月12日

2日

注1)南房総市青木及び館山市山本(暖地園芸研究所)では1樹当たり10果、3樹平均値、それ以外の場所では1樹当たり15果、2樹平均値を示した
注2)累積収穫果実数が50パーセントを超えた日を収穫盛期とした
注3)気温は調査樹の付近、地上1.5メートルの高さに設置した温度計によって記録し、4月2日から4月30日までの日平均気温を平均した

表3「田中」の収穫盛期予測式の現地実証試験結果(平成26年度)

圃場名

4月1日の

平均気温
(度)

収穫盛期

幼果の縦径

実測値

予測値

誤差

(センチメートル)

南房総市青木

1.80

13.8

6月16日

6月19日

3日

館山市山本

1.91

13.3

6月16日

6月18日

2日

注1)1樹当たり10果、3樹平均値を示した
注2)累積収穫果実数が50パーセントを超えた日を収穫盛期とした
注3)気温は調査樹の付近、地上1.5メートルの高さに設置した温度計によって記録し、4月2日から4月30日までの日平均気温を平均した

3.収穫盛期予測情報の発信体制

平成27年度から、房州枇杷研究会が中心となって各地域で収穫期を予測し、JA安房、県関係機関(流通販売課、安房農業事務所、農林総合研究センター)の連携の下、房州枇杷組合連合会から市場関係者や生産者へ向けた情報発信が進められています。今後は、販売促進キャンペーンなど消費者へ向けた情報発信も視野に入れ、予測情報の周知を図る必要があります。

4.収穫盛期予測情報がもたらす効果

  1. 生産者は収穫・出荷に必要な人員を計画的に手配でき、万全の体制で収穫期を迎えられるので、生理障害、落果等の収穫遅れによる損失を防ぐことができます。また、個人宅配やビワ狩りの準備を進めておくことができます。さらに、販売促進キャンペーンなど、産地をPRするために最も適した時期を決めることもできます。
  2. 市場関係者や卸売業者は入荷日が明らかになることで、小売業者へ情報伝達を行うことができ、販路や売り場の確保など計画的かつ効率的な販売戦略を練ることが可能になります。
  3. 消費者はお中元の手配や観光に訪れる計画が立てやすくなります。
  4. 以上のことから、生産、流通、消費の各場面において、果実の損失が抑えられるので、品質の良い「房州びわ」を数多く提供できるようになり、消費・生産拡大に繋がることが期待されます。

5.利用上の留意点

  1. 予測値と実測値との誤差を小さくするためには、標準的な樹勢の樹を利用すること、縦径の測定は4月1日あるいは前後2、3日程度で行うこと、果実袋はびわ2号袋を用いることがポイントです。
  2. 南房総地域以外の場所では、利用開始初年度に予測値と実測値との誤差を算出し、翌年度以降は、その誤差を元に補正します。

初掲載:平成28年5月

農林総合研究センター
暖地園芸研究所
特産果樹研究室
研究員
蔦木康徳
電話:0470-22-2603

お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

電話番号:043-223-2911

ファックス番号:043-201-2615

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