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更新日:令和4(2022)年6月1日
ページ番号:7369
ミカンキイロアザミウマによって媒介されるキク茎えそ病は、平成19年に県内で初めて確認され、その後発生品目や発生地域が徐々に広がってきています。そこで、キク茎えそ病の寄主植物及びアザミウマに有効な薬剤について総合的な防除のポイントを紹介します。
キク茎えそ病は、Chrysanthemum stem necrosis virus(CSNV)によって引き起こされるウイルス病害です。発病すると、キクの中位葉に黄化、えそ症状がみられ、症状の進行にともない茎にもえそが発生して萎れや折れが発生します(写真1)。
写真1キク中位葉及び茎のえそ症状
CSNVは、主にミカンキイロアザミウマによって媒介されます(写真2)。このウイルスは幼虫期のアザミウマが感染した植物を吸汁することで体内に取り込まれ、虫体内で増殖し成虫期に他の植物へ伝搬されます。一度ウイルスを獲得したアザミウマは生涯にわたってウイルス伝搬能力を発揮します。種子伝染、土壌伝染及び管理作業による汁液伝染はしません。
写真2ミカンキイロアザミウマ
千葉県では平成19年にキクで本病の発生が初めて確認され、平成21年にトマト、平成23年にピーマン、平成27年にアスターに発生しています。トマト、ピーマン及びアスターもCSNVに感染すると、キクと同様に葉にえそ症状が発生します(写真3)。またトマトやピーマンは果実が着色不良となり(写真4)、品質が著しく低下します。富山県ではトルコギキョウでの発生も確認されており、今後新たな作物での発生も懸念されます。
写真3アスター葉のえそ
写真4トマトの着色不良
2013年度(平成25年度)に、キク生産施設内部及びその周辺で23科42種類の植物を採取し、CSNV感染の有無を調査しました(表)。その結果、キク科チチコグサモドキ、トウダイグサ科エノキグサ及びマメ科インゲンが陽性となりました。チチコグサモドキでは複数の生産者圃場でCSNV感染株が確認され、ウイルス症状(黄化もしくはえそ)が出ていない無病徴株からも検出されました。一方、エノキグサ及びインゲンはウイルス症状が出ている株からのみ検出されました。チチコグサモドキとエノキグサは、厳冬期のハウス内でも発生が確認されたことから、次作の感染源となる危険性が示されました。
科 | 植物名 | 検出数/調査数 | 科 | 植物名 | 検出数/調査数 |
---|---|---|---|---|---|
アカザ科 | シロザ | 0/3 |
サトイモ科 | サトイモ | 0/3 |
ホウレンソウ | 0/1 |
畑地性カラー | 0/6 |
||
アブラナ科 | キャベツ | 0/1 |
シソ科 | コリウス | 0/2 |
コマツナ | 0/1 |
ホトケノザ | 0/7 |
||
ナズナ | 0/3 |
スミレ科 | スミレ | 0/2 |
|
ナバナ | 0/3 |
セリ科 | ニンジン | 0/1 |
|
アルストロメリア科 | アルストロメリア | 0/2 |
ツユクサ科 | ムラサキツユクサ | 0/2 |
イヌサフラン科 | サンダーソニア | 0/1 |
トウダイグサ科 | エノキグサ | 2/3 |
イネ科 | メヒシバ | 0/3 |
ナス科 | ジャガイモ | 0/1 |
イネ科雑草 | 0/1 |
トウガラシ | 0/1 |
||
ウリ科 | カボチャ | 0/1 |
ピーマン | 0/3 |
|
カタバミ科 | カタバミ | 0/5 |
ハエドクソウ科 | ムラサキサギコケ | 0/1 |
キク科 | オニノゲシ | 0/5 |
バラ科 | イチゴ | 0/1 |
セイヨウタンポポ | 0/2 |
ヒガンバナ科 | ハナニラ | 0/1 |
|
チチコグサモドキ | 11/112 |
ヒユ科 | スベリヒユ | 0/7 |
|
ノゲシ | 0/1 |
ブドウ科 | ツタ | 0/2 |
|
マトリカリア | 0/1 |
マメ科 | インゲン | 2/10 |
|
レタス | 0/1 |
クズ | 0/1 |
||
ハキダメギク | 0/1 |
ラッカセイ | 0/69 |
||
クサスギカズラ科 | ヤブラン | 0/1 |
ユリ科 | ネギ | 0/1 |
ケシ科 | ポピー | 0/1 |
リューココリーネ | 0/3 |
|
ルリフタモジ | 0/7 |
注)調査植物の検出頻度を検出数/調査数で示した
キク茎えそ病のように虫が媒介するウイルス病の防除対策は、「入れない」、「増やさない」、「出さない」、「つながない」ことが大切です。現地調査から得られた結果をふまえて防除対策について紹介します。
感染した苗を定植することで被害が大きくなるので、健全な(ウイルスフリー)親株または購入苗を使用し、圃場にウイルスを入れないことが大切です。あわせて、育苗から定植まで薬剤散布や防虫ネット展帳によりアザミウマの防除を徹底し、病原ウイルスと媒介虫の両方を圃場に「入れない」ことが重要です。
媒介虫であるミカンキイロアザミウマ及びCSNV保毒虫の増加により発病株が急増します。このため0.4ミリメートル目合いの防虫ネットの使用及び継続的な薬剤散布等でアザミウマの密度を減らしましょう。またウイルス感染株を早期に抜き取ることでCSNV保毒虫を「増やさない」ことが大切です。
県内キク生産圃場から採取したミカンキイロアザミウマ個体群の薬剤感受検定の結果、スピノシン系剤(スピネトラム(ディアナSC)、スピノサド(スピノエース顆粒水和剤))、ネオニコチノイド系剤(アセタミプリド(モスピラン水溶剤)、ニテンピラム(ベストガード水溶剤))及び一部の有機リン剤(MEP(スミチオン乳剤))は効果が低下していました。一方、エマメクチン安息香酸塩(アファーム乳剤)、クロルフェナピル(コテツフロアブル)及びプロチオホス(トクチオン乳剤)は効果の低下はみられないことから、これらの薬剤を用いてローテーション散布を行い、アザミウマの密度を減らすことが大切です。
キク茎えそ病が発生している圃場では保毒虫が周辺作物へ飛散する可能性があります。栽培終了後はハウスを密閉し、高温と乾燥によりアザミウマを死滅させ、外に「出さない」ようにしましょう。蒸し込み期間は、夏季は3から7日間、冬季は25から30日が目安になります。ハウス内のキク残渣や雑草が残っている場合は、虫が生き残りやすくなるため、あらかじめ除草を行います。蒸し込み終了後の植物残渣は土中に埋設するなどして適切に処分します。
CSNV寄生植物であるチチコグサモドキは冬季でも施設内によく見られる雑草です。また12月の調査ではCSNVに感染した株が確認されています。本圃にキクが栽培されていなくてもこうした寄主植物である雑草が感染源となる危険性があるため、施設内や周辺の除草を行い、伝染サイクルを「つながない」ようにしましょう。
初掲載:平成28年5月
農林総合研究センター
病理昆虫研究室
研究員
國友映理子
電話番号:043-291-9991
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