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更新日:令和5(2023)年8月31日
ページ番号:3441
平均寿命の伸長による高齢者の増加と少子化の進行による年少人口の減少により人口の高齢化が進んでいます。千葉県の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の割合)は総務省の推計人口(平成14年10月1日現在)によると15.6%で、全国平均の18.5%を下回っており、埼玉県、沖縄県、神奈川県に次いで全国で4番目に若い県ですが、一方で県内には全国平均を超えて高齢化の進んでいる地域もあり、また、高齢化率の低い地域においても、今後は急速に高齢化が進むことが予想されています。
このような中で、高齢期においても健康で充実した生活を送ること、介護を必要とすることとなっても、痴呆の状態になったとしても、人生の最期まで、個人として尊重され、自分の持てる力を活用してその人らしく自立して暮らしていくことは誰もが望むことです。
このため、尊厳の保持を基本理念に、高齢者一人ひとりが自分のことは自分で決定し、生まれ育った地域や住み慣れた地域で、安心して生き生きとして暮らしていける社会の実現を目指していくことが必要となります。また、高齢者ケアにおいても、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持し、高齢者自身が尊厳を保つことができるようなサービスが提供される必要があります。
これまで介護の現場では、寝たきりゼロを目指し、ベッドから車いす等への日常生活の移行の努力がなされてきた過程において、転倒・転落事故の防止、点滴や経管栄養のチューブの引き抜き防止、他人への迷惑行為の防止などの理由により、やむを得ないものとして身体拘束が行われてきたケースも多いと考えられます。
「身体拘束」とは、利用者が自らの意思で降りられないようにベッドに柵をしたり、車いすを使用する時に利用者を車いすにベルト等で固定するなど、利用者の行動を制限することですが、平成12年4月にスタートした介護保険制度においては、介護を必要とする高齢者の自立支援に向けて、様々な保健医療サービス及び福祉サービスが提供されており、その中で高齢者が利用する介護保険施設等では身体拘束は原則として禁止されました。
こうした身体拘束は、人権擁護の観点から問題があるだけでなく、拘束される高齢者のQOL(生活の質)を根本から損なう危険性を有しています。身体拘束によって高齢者の心身機能は容易に低下し、人間としての尊厳も侵され、その状態を一層悪化させるおそれがあります。
また、身体拘束に代わる方法を十分に検討することなく、「やむを得ない」と安易に身体拘束が行われることで、看護・介護のスタッフも、自らが行うケアに対して誇りをもてなくなり、士気の低下を招くばかりか、介護保険施設等に対する社会的な不信、偏見を引き起こすおそれすらあります。
もちろん身体拘束の廃止は容易なことではありませんが、身体拘束を容認する考え方を高齢者ケアに関わる全ての者が問い直し、身体拘束を「事故防止対策」として安易に正当化することなく、高齢者の立場になってケアの在り方を見直し、その人権を保障しつつケアを行うという基本姿勢に立って取り組まなければならないことです。
このような身体拘束の廃止を実現していく取組は、介護保険施設等におけるケア全体の質の向上や生活環境の改善のきっかけとなりうるものです。身体拘束の廃止を最終目標とするのではなく、身体拘束を廃止していく過程で提起された様々な課題を真摯に受け止め、よりよいケアの実現に取り組んでいくことが重要です。
<参考>
身体拘束禁止の対象となる具体的な行為
介護保険指定基準において禁止の対象となっている行為は、「身体拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為」である。具体的には次のような行為があげられる。
「身体拘束ゼロへの手引き」より
国においては、身体拘束の廃止に向けての幅広い取組を推進するため、平成12年6月から身体拘束ゼロ作戦推進会議が開催され、平成13年3月には身体拘束のないケアの実現を支援していくために「身体拘束ゼロへの手引き」が発行されました。この手引きには、実際のケアに役立つよう、身体拘束をせずにケアを行うための基本的な考え方や、廃止を実現した具体的な事例が数多く盛り込まれています。
そこで、この手引きを参考に、身体拘束廃止に向けてまずなすべきことなどについて以下のとおり整理しました。介護保険施設等においては、こうした身体拘束に関する基礎認識を踏まえ、身体拘束ゼロの実現に向けて積極的に取り組んでいくことが重要となります。
ア トップが決意し、施設や病院等が一丸となって取り組む
組織のトップである施設長・病院長や看護・介護部長等の責任者が身体拘束廃止を決意し、表明すること。そして、現場をバックアップする方針を徹底すること。事故やトラブルが生じた際にトップが責任を引き受ける姿勢を示すこと。これにより、現場のスタッフは不安が解消され、安心して取り組むことが可能となる。
身体拘束廃止に向けて施設や病院等が一丸となって取り組むことが大切で、身体拘束廃止委員会を設置するなど現場をバックアップする態勢を整えることが必要である。
イ みんなで議論し、共通の意識をもつ
身体拘束の弊害を認識し、どうすれば廃止できるかを、トップも含めてスタッフ間で十分に議論し、問題意識を共有していく努力が求められる。
その際に最も大事なのは入所者(利用者)中心という考え方である。身体拘束に対する基本的な考え方や転倒等事故の防止策や対応方針を十分説明し、本人や家族の理解と協力を得なければならない。
ケアプランの検討過程等においては、その入所者(利用者)に身体拘束をしなくてすむ方策を徹底的に追求し、スタッフ間で共通の理解を持つことが必要である。
ウ まず、身体拘束を必要としない状態の実現をめざす
個々の高齢者についてもう一度生活パターンの把握と分析を行い、心身の状態を正確にアセスメントし、身体拘束を必要としない状態をつくり出す方向を追求していくことが重要である。
身体拘束を行わざるを得なくなる原因を徹底的に探り、その原因を除去するためにケアを見直すなどの状況改善に努めることにより、身体拘束は解消する方向に向かう。
そのためには、起きる、食べる、排せつする、清潔にする、活動するという五つの基本的な事項について、その人に合った十分なケアを徹底することである。
エ 事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援態勢を確保する
身体拘束の廃止を側面から支援する観点から、手すりをつける、足元に物を置かない、ベッドの高さを低くするなどの工夫によって転倒や転落などの事故が起きにくい環境づくりが必要である。
また、落ち着かない状態にあるなど対応が困難な場合については、スタッフが随時応援に入り、個々の高齢者の生活パターンに合わせて十分なケアを徹底するような、スタッフ全員で助け合える、柔軟性のある態勢づくりも必要となる。
オ 常に代替的な方法を考え、身体拘束するケースは極めて限定的に
身体拘束せざるを得ない場合についても、本当に代替する方法はないのかを真剣に検討することが求められる。困難が伴う場合であっても、ケア方法の改善や環境の整備など創意工夫を重ね、解除を実行する。
「生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」は身体拘束が認められているが、この例外規定は極めて限定的に考えるべきで、すべての場合について身体拘束を廃止していく姿勢を堅持することが重要である。
<参考>
五つの基本的ケア
「身体拘束ゼロへの手引き」より
介護保険指定基準上、「利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」には身体拘束が認められているが、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つの要件を満たし、それらの要件の確認等の手続が極めて慎重に実施されているケースに限られる。
<参考>
転倒による骨折事故
(福島地裁 平成15年6月3日判決)
介護老人保健施設に入所していた95歳の女性が、夕方6時頃に、自室のポータブルトイレの排せつ物を自ら捨てに行こうとし、汚物処理室の出入口の仕切り(高さ87mm)に足を引っかけて転倒し、右大腿骨頸部を骨折した。
この女性は要介護度2で、ケアプランに「骨粗しょう症あり、下半身の強化に努め転倒にも注意が必要」と記載されていた。
当該施設のマニュアルでは、ポータブルトイレの清掃を朝5時と夕方4時に行うことになっていたが、当日の夕方は行われなかった。この女性はナースコールで職員を呼び処理してもらうこともできたが、清掃を定時に行うべき義務に違反したことと事故との間に相当因果関係があることから、裁判所は、施設は債務不履行責任を負うべきとした。
また、入所者が出入りすることは予定されていない場所であるとしても、当該施設の汚物処理室は転倒等の危険を生じさせる形状の設備であることから、裁判所は、民法第717条に規定する土地の工作物の設置又は保存の瑕疵に該当するとした。
<参考>
誤えんによる死亡事故(1)
(横浜地裁 平成12年6月13日判決)
老人保健施設に入所していた76歳の男性が、夕食をとったところ異変が起こり、職員が背中をたたいたり吸引を行ったが異物は出ず、のどに指を入れて探りこんにゃく1個を取り出した。男性の状態は改善せず、病院に搬送したが、途中でチアノーゼが見られ呼吸停止状態となった。
病院では、医師が吸引を行ってこんにゃく1~2個を取り出し、心臓マッサージを行い昇圧剤を投与したところ、自発呼吸が再開し心臓も鼓動を開始した。家族は延命措置を望まず、翌日に死亡した。
食材として腸をきれいにする等の理由からこんにゃくを選択し、小さく切り分けるなど高齢者に提供することに十分配慮しており、その他の食材も通常の家庭料理に一般的に用いられるもので、高齢者の特質に応じた調理がなされていることから、裁判所は、施設に注意義務違反は認められないとした。
この男性は常食を通常に自力で摂取することが可能で付添いは必要でなく、職員は入れ歯の有無や食事状況に注意を払い、食材によっては自力摂取が可能な入所者でも付き添っていたことなどから、裁判所は、この男性に摂食障害は認められないし、施設に注意義務違反も認められないとした。
事故当時に食堂で食事をしていた約40名の入所者は自力摂取が可能で、職員3名が巡回し必要な介護を提供しており、事故発生時には直ちに職員3名が駆け寄って一般的な救急救命措置を行っていることや、速やかに病院へ搬送の上、医師の処置にゆだねていることから、裁判所は、施設に監視体制の不備や注意義務違反は認められないとした。
<参考>
誤えんによる死亡事故(2)
(横浜地裁 平成12年2月23日判決)
特別養護老人ホームに入所していた73歳の男性が、職員の介護で朝食をとり、午前8時23分頃に薬を飲んだ。午前8時25分頃に職員が様子を見ると、意識がなくチアノーゼが見られた。
職員は男性をベッドに横にし、血圧を測ったが脈も血圧も取れなかったため、心臓マッサージをしたが効果はなかった。その後、家族に電話をして病院の指示を受けて救急車を手配したが、食物の誤えんによる窒息で死亡した。
この男性は食事の際に飲み込みが悪く、口にためこんで時間がかかる状態であったこと、事故が朝食直後に起きていることなどから真っ先に疑われるのは誤えんであったが、職員は誤えんを予想した措置をとらず、救急車の手配が午前8時40分頃であったことから、裁判所は、適切な処置を怠った過失が認められ、介護事故に対してこのような硬直した管理体制を取っていたこと自体にも問題があるとした。
また、異変を発見した際に、直ちに背中をたたいたり、吸引器を使用するか、直ちに救急車を手配して救急隊員の応急措置を求めることができていれば、気道内の食物を取り除いて救命できた可能性は大きいと判示している。
これまで述べてきたように、平成12年4月の介護保険法の施行に伴い、介護保険施設等における身体拘束は原則として禁止されましたが、県が平成13年10月に実施した身体拘束に関する実態調査によると、回答のあった325か所のうち221か所(68%)の介護保険施設等において、何らかの身体拘束が行われていました。
利用者等の生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合については身体拘束が認められていますが、実際には、身体拘束に代わる方法を十分に検討することなく、やむを得ないと安易に正当化し、身体拘束を行っているケースも多いと考えられます。
しかしながら、緊急やむを得ない場合の対応については、極めて限定的に考えるべきであり、基本的には全てのケースについて身体拘束を廃止していく姿勢を堅持するよう求められています。
身体拘束の問題は高齢者ケアの基本的なあり方に関わるものであり、身体拘束の廃止を実現するためには、多くの介護保険施設等にとって、事故防止対策等の問題を含めて困難な事態が予想されます。
そこで、千葉県においては、介護保険施設等の介護の現場における身体拘束廃止への取組を支援し、よりよい介護のあり方等有効な方策について検討するため、千葉県身体拘束ゼロ作戦推進協議会を平成14年8月に設置し、以後6回にわたり協議会を開催して議論を続けてきたところです。
この中で、今年度は次の(1)に述べるような取組を進めてきましたが、さらに、来年度以降の課題として次の(2)から(4)について提案をしたいと思います。県に対しては、身体拘束ゼロ作戦推進のため、人材養成研修の実施などの支援策について検討を望みたいと思います。
千葉県身体拘束ゼロ作戦推進協議会では、身体拘束に関する実態調査の結果や県内の介護保険施設等における取組などから、身体拘束廃止に向けた支援策等について検討を行ってきました。協議会での議論等を整理し報告書として取りまとめ、介護保険施設等の関係機関に配付することとしました。
また、平成15年7月には、協議会における検討の参考とするためアンケートを実施し、人材養成研修の実施方法等について介護保険施設等の意見を調査するとともに、身体拘束廃止研修ビデオの貸出しを開始し、意識啓発に努めてきました。
介護保険施設等において身体拘束の廃止に取り組むためには、その第一歩として、組織のトップである施設長等の責任者が身体拘束廃止を決意し、介護職員、看護職員等のみならず、みんなで問題意識を共有することが重要となります。
このためには、「なぜ身体拘束がいけないのか」「どうしたら身体拘束を廃止できるのか」を理解したリーダーの存在が不可欠であることから、各介護保険施設等において身体拘束廃止を推進する人材の養成が必要であると思われます。
また、身体拘束の廃止に向けて一部のスタッフが一生懸命に取り組んだとしても、施設長等の理解や協力がなければ現場は混乱し、効果はあがらないことから、特に研修の第一段階となる基礎課程については、現場の職員だけでなく、組織のトップである施設長や看護・介護部長等の責任者も一緒に受講することが望ましいと思われます。
さらに、身体拘束のないケアの実践に結びつけていくためには、次の段階として、身体拘束の実態を把握し、具体的な事例について拘束廃止のための方策について検討するなど、より専門的な研修が必要となります。
県が平成15年7月に実施したアンケート結果によると、看護・介護等の一般職員を対象とした、基本的なことから実践的なことまで2日程度で行う研修を希望する介護保険施設等が多くなっています。研修を実施するに当たっては、こうした要望に応じた内容や期間とするよう努めるとともに、研修の実施回数を多くしたり、研修の開催場所を多くするなど、現場の職員も参加しやすい研修とすることが求められています。
介護保険施設等において身体拘束せざるを得ない場合についても、本当に代替する方法はないのかを真剣に検討することが重要となります。「仕方がない」「どうしようもない」とみなされて拘束されている人はいないか、拘束されている人については「なぜ拘束されているのか」を考え、まず、いかに拘束を解除するかを検討することから始める必要があります。
身体拘束を解除するには困難が伴う場合であっても、ケア方法の改善や環境の整備など創意工夫を重ねることになりますが、介護保険施設等の内部で解決方法が得られない場合には、外部の相談窓口等を利用し、必要な情報を入手し参考にすることが必要になります。
このため、身体拘束を廃止していくためのケアの工夫等について、個別に具体的な助言指導を行う相談窓口を設置し、情報の収集や提供を行う相談体制を整備することが必要であると思われます。
相談窓口については、気軽に相談できることや、中立的であること、現場の状況を理解した専門的な相談員による対応、現場への相談員の派遣等が求められており、県などの公的機関に相談の受付窓口を設置し、関係団体の協力を得て身体拘束を解除するための相談に応じていくことが望ましいと思われます。
また、介護保険施設等の利用者や家族からの相談については、高齢者の介護等に関する総合相談窓口が設置され、関係機関相互の連携が図られていることから、身体拘束に関する相談についても、こうした既存の相談窓口で相談に応じていくことが望ましいと思われます。
なお、より良い取組に向けて関係機関が相互に連絡を取り、こうした過程で収集された情報を共有し、その後の相談や人材養成のための研修に役立てるともに、身体拘束を廃止した実践事例等についての情報を介護保険施設等に提供していくことも重要と考えられます。
介護保険施設等において身体拘束を廃止しようとしても、転倒・転落防止などを理由に利用者の家族が身体拘束を希望しており、身体拘束を解除することについて家族の同意を得ることが難しい場合もあるものと考えられます。身体拘束の廃止を実現するためには、身体拘束がもたらす多くの弊害について、利用者の家族にも理解してもらうことが必要となります。
このため、介護保険施設等において利用者の家族に十分に説明を行い、アセスメントの実施から施設サービス計画等の作成までの一連の過程に利用者や家族の参加を促すなど、日ごろから家族との協力関係を築いておくことが望ましいと思われます。
県においても、身体拘束がもたらす多くの弊害や拘束が拘束を生むという悪循環などについて、様々な機会を積極的に設けて幅広く意識啓発に努めることが望ましいと思われます。
なお、介護保険施設等に対しては、指導監査等の機会をとらえた意識啓発とともに、明らかに不正又は著しく不当と認められる身体拘束が行われている場合には厳正な対応をとることも重要と考えられます。
また、介護保険制度は個人の自立した日常生活を支援するため質の高いサービスを提供するものであり、これまでの集団処遇型のケアから個人の自立を尊重したケアへの転換が求められています。このため、介護保険施設等においてユニットケア(施設の居室をいくつかのグループに分けて、それぞれをひとつの生活単位とし、少人数の家庭的な雰囲気の中でケアを行うもの。)の導入が進められています。
こうした取組によって介護保険施設等におけるケア全体の向上や生活環境の改善を図り、介護相談員の派遣等によって介護サービスの質的な向上を図ることについても、身体拘束の廃止に向けた取組とともに、身体拘束を必要としないケアの実現につながるものと考えられます。
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