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目の前の患者さんを救う体制を充実させるために

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救急診療部長・集中治療科部長 松村 洋輔

 

 

研修医時代の経験から救急医の道を決めた

ーー数ある診療科の中から、なぜ救急集中治療医を目指したのでしょうか。

救急医療の道を選んだのは、研修医時代に経験した無力感がきっかけでした。目の前の患者を助けたいという思いを抱きながらも、経験の少ない自分の力不足を感じたのは一度や二度ではありません。

逆に無力感を克服すれば、救急医療の醍醐味である患者さんを直接助ける喜びを感じられるとも思いました。医療従事者を志した人の多くが持つ「困っている人を助けたい」という思いを直接的に叶えてくれる分野が、救急医療です。目の前で苦しんでいる患者さんを自分の手で助けられるプロセス、患者さん本人や家族からの感謝の言葉に喜びとやりがいを感じられると、救急医療を選びました。

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ーーやりがいを感じる反面、プレッシャーが大きくハードワークが求められると思います。

もちろん「最後の砦」と言われるくらいなので、もう救えるのは私たちしかいないという緊張感はあります。だからこそやりがいも感じます。

重症患者が救急車で搬送されてきた際、救急医だけでなく各診療科の専門医とも連携しながら、迅速に適切な治療を目指すのが当センターの最大の特徴です。当センターのみならず、千葉県内にある14の救命センターと顔の見える関係を築き、県全体の救急医療を支えている自負もあります。

地域全体で協力し合いながら救急医療に取り組むことで、より多くの命を救えると信じてきました。困難な局面でも同じ志を持つ仲間と共に乗り越えていくのは、ハードワークと自己研鑽を怠らないからこそ実現できるのだと思います。

救急専門だからこそ働きやすく融通も利く

ーー千葉県総合救急災害医療センターの働きやすさについて教えてください。

当センターは病院全体が救急医療に特化しているため、他の救命救急センター以上に、自分の裁量で勤務時間を調整しやすいと言えます。労働時間の上限管理や当直明けの休暇取得など、ワークライフバランスに配慮された病院の方針が、働きやすさに繋がっています。救急医療は特に厳しい環境だと思われがちですが、当センターでは、スタッフの生活を大切にしながら、質の高い医療を提供できる体制が整っているので、子育て中の家庭とも両立しやすい環境だと思っています。

ーー初期研修のローテーションで工夫されている点があるとお聞きしました。
千葉県立病院が5つあり、ローテーションで研修にやってきます。プライマリーケアから救急医療まで幅広く学んでもらう必要があるのはもちろんですが、当センターはかなり重症の方が多いので、スキルや知識がほぼない状況では溶け込みにくいんです。

だからこそ、1年目後半から2年目にかけて当センターに来てもらうように調整していただき、救急医療に必要な知識とスキルを効率的に学べるようにしています。

ーー後進の育成のために特に心がけていることは何でしょうか。

日頃から伝えているのは、目の前の患者を助けたいという素直な気持ちを大切にしてほしいということです。また先輩から学んだことを、先輩に恩返しする必要はありません。もし恩を感じているのなら、自分の後輩に教えてほしいのです。

その結果、組織として、地域として医療の質が向上していくことにつながると信じています。だからこそ若手医師には、多様な症例を経験してもらうことが重要だと考えています。当センターでは、重症度の高い患者が多く搬送されてくるため、若手医師が短期間で集中的に経験を積むことができます。ただし、決して1人にはしません。

上級医のサポートを受けながら、段階的に責任あるポジションを任せていく方針です。若手医師の成長を信じ、様々な機会を与えながら、温かく見守る姿勢が大切だと考えています。

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千葉県全体の救急体制の充実を担う

ーー千葉県の課題として医師数が少ないという点があげられるかと思います。
その通り、人口対比で医師が不足しているのは事実です。しかし医師数が少ないからこそ、若手からさまざまな経験を積む機会が多いという利点があります。ひとりの医師の成長という視点からすると、恵まれていると言えるかと思います。

ただ医療体制が不十分な状態を放置することは許されません。だからこそ、県内にある14の救命センター同士の強固な連携、さらには各地域の救命救急センターと1,2次病院の連携が重要なんです。各施設の職員同士が顔なじみで、施設間のやり取りが円滑に進んでいることは誇ってよいかと思います。

ーーいざというときに力を発揮しますね。
平時はもちろんなんですが、いつ起こるかわからない大規模災害への備えとしても意味があります。救急医療の1つの分野に災害医療があります。一度災害が起きれば全国各地からDMATのような災害医療派遣チームなどで支援するわけです。一方で、派遣を円滑にするために送り出せる体制の構築や、被災地外からの支援体制を作ることができることがより大切です。2024年正月に能登半島で地震が起きて、各病院から送りだしたり、受け入れ体制を構築できそうか、などについて連絡した際も非常にスムーズでした。

病院組織を超えた高度な連携を実現し、千葉県全体の救急医療を我々がみんなで支えるという共通の目標があるのも、やりがいがありますし、チャレンジングな目標だと思います。一緒に貢献できる仲間をさらに増やしていきたいですね。