千葉県レッドデータブックで絶滅とされていた「ウツセミガイ」を館山湾で採集
発表日:令和5年9月8日
県立中央博物館 分館海の博物館
県立中央博物館 分館海の博物館(勝浦市)の立川浩之(たちかわひろゆき)主任上席研究員と共同研究者のお茶の水女子大学吉田隆太(よしだりゅうた)博士は、千葉県館山湾の海底から、アメフラシの仲間の軟体動物「ウツセミガイ」の生きた個体を採集しました。本種は、千葉県レッドデータブックで絶滅と評価されており、全国的にも希少な種です。
この採集報告の掲載された論文は、2023年9月5日(火曜日)に、日本貝類学会研究連絡誌『ちりぼたん』で公開されました。
当館では、本日9月8日(金曜日)から、報告に使用されたウツセミガイの標本と論文掲載雑誌を展示します。
研究グループ(著者順、職名は論文投稿時)
立川 浩之(たちかわ ひろゆき)千葉県立中央博物館分館海の博物館 主任上席研究員
吉田 隆太(よしだ りゅうた)お茶の水女子大学湾岸生物教育研究所 特任助教(現職名 一般職員)
掲載誌・論文タイトル
掲載誌 『ちりぼたん』(日本貝類学会研究連絡誌)
論文タイトル 千葉県館山湾で採集されたウツセミガイ Akera soluta (Gmelin, 1791)
研究の概要
ウツセミガイについて
ウツセミガイは分類学的には軟体動物門 腹足綱 アメフラシ目 ウツセミガイ科に属する巻貝の仲間で、磯でよくみられるアメフラシ類に近縁な種です。体の内部のつくりはアメフラシ類とよく似ていますが、背中に円筒形の大きな殻を背負っていること(アメフラシ類も木の葉のような形の薄い殻を持つが、体の中に埋もれていて外からは見えない)、頭部に触角がないこと(アメフラシ類は頭部に大きな触角を持つ)など、アメフラシ類とは外観が大きく異なります。
ウツセミ(空蝉)とはセミの抜け殻のことで、ウツセミガイという和名は本種の殻が薄く壊れやすいことにちなんで付けられたものといわれています。インド洋および西部太平洋の温帯域から熱帯域に分布し、日本にも生息していますが、全国的に記録は少ない種です。
今回採集された状況について
お茶の水女子大学湾岸生物教育研究所(館山市香(こうやつ))では、研究材料であるウニ類などの入手を目的に、館山湾において定期的に海底に住む生物の採集を行っています。実験に使用しない貝類や甲殻類などが採集された場合には、海の博物館で千葉県産の生物標本として登録保存しています。2022年3月2日に水深14から23.5 mの砂底からウニ類とともに採集された貝類を海の博物館で調べたところ、今回のウツセミガイ1個体が含まれていました。
レッドデータブックで絶滅と評価されている種の発見の意義について
ウツセミガイは、1960年代以降近年に至るまで発行された図鑑類などの多くで、「房総半島以南に分布する」とされています。しかし、実際に房総半島(千葉県)でウツセミガイが採集された記録や証拠となる標本は見当たりません。このため、『千葉県の保護上重要な野生生物―千葉県レッドデータブック―動物編』(2011年改訂版)では、およそ50年間正確な記録がなかったことも考慮して、現状は絶滅のランクにあると評価されています。
今回採集されたウツセミガイは1個体だけであり、他の海域からプランクトンとして分散してきた幼生が成長した偶発的な出現なのか、館山湾で数は少ないながらも継続的に生息しているのかは今のところ明らかではありません。ただし、少なくとも現在の館山湾の環境はウツセミガイが生育するための条件を備えていると考えられ、今後の本種の出現状況を継続的に調査していくことが必要です。
館山湾で採集されたウツセミガイ(体を縮めたところ。左が頭部で、右半分のクリーム色の部分が殻)
体を伸ばしたウツセミガイ(体を十分伸ばしたときの体長は約5センチメートル、殻の長さは1.4センチメートル)
研究内容の展示について
報告に使用されたウツセミガイの標本と生時の写真、論文の掲載された学術雑誌を展示します。
期間 9月8日(金曜日)~11月5日(日曜日)月曜日休館(月曜日が祝日の場合は翌平日)
会場 県立中央博物館 分館海の博物館(勝浦市吉尾123)
開館時間 午前9時から午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料 一般200円、高校生・大学生100円
※中学生以下・65歳以上・障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1人は無料
問い合わせ
県立中央博物館 分館海の博物館
主任上席研究員 立川浩之(たちかわひろゆき)
電話 0470-76-1133
報道発表用記事