答申第112号
答申第112号
平成23年5月30日
千葉県公安委員会委員長様
千葉県個人情報保護審議会
会長原田三朗
審査請求に対する裁決について(答申)
平成22年3月17日付け公委(○警)発第1号による下記の諮問について、別添のとおり答申します。
記
平成22年1月13日付けで審査請求人から提起された、平成21年11月9日付け○警発第379号で行った自己情報部分開示決定に係る審査請求に対する裁決について
諮問第93号
答申第112号
|1.審議会の結論|2.審査請求の経緯|3.審査請求人の主張要旨|4.諮問実施機関の説明要旨|5.審議会の判断|6.審議会の処理経過|
千葉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成21年11月9日付け○警発第379号で自己情報部分開示決定(以下「本件決定」という。)を行った審査請求人の開示請求に係る「警察安全相談受理票(甲)平成○○年○○月○○日付け受理番号○○○○○○○○○○○○○」及び「警察安全相談受理票(甲)平成○○年○○月○○日付け受理番号○○○○○○○○○○○○○」(以下「本件文書」という。)について、千葉県個人情報保護審議会(以下「審議会」という。)は、次のとおり判断する。
(1)実施機関が本件決定において不開示とした情報のうち、受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名のうち姓は開示すべきである。
(2)実施機関が行ったその他の決定については妥当である。
(1)審査請求人は、平成21年10月26日付けで実施機関に対し、千葉県個人情報保護条例(平成5年千葉県条例第1号。以下「条例」という。)第16条第1項の規定により、「平成○○年○○月から現在までの間に私が○○署に誰かに付きまとわれている件で相談した記録(電話での確認を含む)」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
(2)本件請求に対して実施機関は、本件文書の不開示部分は条例第17条第2号及び第6号に該当するとして本件決定を行ったため、審査請求人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定により、実施機関の上級行政庁である千葉県公安委員会に対し、平成22年1月13日付けで本件決定の取消しを求め審査請求を行った。
(3)この審査請求に対して、条例第46条第2項に規定する諮問実施機関として千葉県公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)は、同条第1項の規定により平成22年3月17日付け公委(○警)発第1号で審議会に諮問をしたものである。
(1)審査請求の趣旨
本件決定の取消しを求めるものである。
(2)審査請求の理由
審査請求人が、審査請求書及び意見書で主張している審査請求の理由は、概ね以下のとおりである。
ア印影、氏名、職員番号について
- (ア)警察安全相談の際に相談者である請求人も名乗っており、受理者も相談者に既に氏名を名乗っている。既に明らかとなっている受付業務を遂行した公務員の氏名を当該公文書において特定の個人を識別する情報として相談者に不開示とするのは、社会通念上不合理である。
- (イ)警部補以下の警察官と相当する警察職員であれば、誰の氏名をも明らかに出来ないという理屈は、到底受け入れられるものではない。また、相談員には階級はなく、千葉県個人情報保護条例第17条第2号ハの警察職員を定める規則(平成17年千葉県規則第65号。以下「警察職員規則」という。)の該当ではない。前述の理由が認められない場合、社会通念上名乗るであろう姓(名字)は開示すべきである。
- (ウ)公文書には虚偽が記載された状態であり、警察と請求人との信頼関係を保つためにも警察安全相談受理票を直接取り扱った措置者や係の氏名や印影、職員番号、直接の上司である係長の印影を開示し、請求人に対し姓名を明らかにしたうえで、何故このような内容の誤った公文書が作成されたのか説明責任を果たすべきである。前述の理由が認められない場合、社会通念上名乗るであろう姓(名字)は開示すべきである。
- (エ)礼節を重んじる組織として警察は警察官同士が応対するときは挨拶の仕方まで詳細に警察礼式(昭和29年国家公安委員会規則第13号)で定めながら、一般市民に対しては儀礼的、形式的に挨拶したものだとする説明は看過できない。相談者に対し氏名を名乗ったのは、相談業務の匿名性を極力排除するという、窓口職員等の名札の着用について(平成13年5月25日例規(装・警)第38号。以下「名札着用例規」という。)に従い名乗ったもので、千葉県警察の規定・慣行に基づいて知り得た情報であり、条例第17条第2号ただし書イに該当する。
- (オ)審査請求人は、空き巣等の被害を受け続けており、生命、健康、生活又は財産を保護するために必要な情報であり、条例第17条第2号ただし書ロに該当する。
- (カ)階級のない嘱託の身分を有する職員が警察職員規則で定める「警部補以下の階級にある警察官と警部補以下の階級に相当する職にある警察官以外の職員」に該当するとの説明に不備があり、条例第17条第2号ただし書ハに該当する。
- (キ)警察安全相談を担当した警察職員は審査請求人に氏名を名乗っており、それを了知されていると認識していると考えられるとともに、相談者と警察職員は被害の防止、犯罪抑止等において利害を共通する立場にあることから、条例第17条第2号ただし書ニに該当する。
イ件名及び措置結果について
- (ア)不開示決定をしているため、事実確認ができず請求人の誤解を招いているのである。警察と請求人との信頼関係を保つため、今後の警察安全相談を行うためにも、相談内容に対する警察官の評価が記載された部分も含めきちんと明らかにすべきであり、全面開示が必要である。
- (イ)審査請求人が行った相談事実と異なる相談結果の件名や措置結果の一部不開示情報は、相談結果に基づく内容や評価、判断を示したものには当たらない。
ウ電話相談について
- 請求人は、1回目の警察安全相談の後にも電話による相談を行い、この内容についても開示請求を行ったが、自己情報部分開示決定には含まれていなかった。つまり、警察安全相談票は作成されておらず、電話通信に関する記録も文書としては存在しなかった。また、電話相談の内容は深刻なもので、1回目の平成○○年○○月○○日付け受理票(甲)の措置結果欄の下枠内にある手書きのメモ書きが、2回目の相談記録であるとすることについては不同意であり、その説明をつくすことを求めるとともに、条例に照らし、収集した個人情報に対する正確性及び安全性の確保の不備並びに文書特定の不備を主張する。
諮問実施機関の説明は、理由説明書及び審議会が諮問実施機関に確認したところによると概ね以下のとおりである。
(1)対象文書の性質
警察では、「警察安全相談取扱要領の制定について」(平成20年3月25日例規第19号)に基づき、犯罪等による被害の未然防止に関する相談その他安全と平穏に関わる相談を警察安全相談と位置付け、面接、電話等により警察本部、警察署及び交番等において受理している。受理した相談に対しては、相談者の不安解消のためにアドバイスや関係機関の紹介を行うなどのほか、相談内容によっては事件化やパトロールを強化するなどの対応をとることもある。そして、その相談内容や対応結果を明らかにしておくために警察安全相談受理票を作成している。初めて相談を受理した場合は、警察安全相談受理票(甲)を作成し、すでに受理している相談に関し継続して相談を受理した場合は警察安全相談受理票(乙)を作成することとなっている。
(2)対象文書の記載内容
(3)審査請求人の主張に対する検討について
ア警部補以下の氏名等の不開示妥当性について
- 本件相談を受理したのは、警部補以下の警察官又は警察安全相談員であり、その氏名は開示請求者以外の特定個人を識別できる情報に該当することが明白である。また、印影についても、社会通念上、氏名と一体のものとして使用されていることから、氏名と同一視又はこれに準じて取り扱われるべきものであるので、開示請求者以外の特定個人を識別できる情報に該当し、以下のとおり本号ただし書にも該当しないため、条例第17条第2号本文に該当する。
- (ア)ただし書イについて
- 警察安全相談業務において、同じ担当者が継続して以後の相談を取り扱うことが適当と考えられるときや儀礼的な挨拶として氏名を名乗ることはあるが、法令又は慣行に基づいて知り得た情報ではない。また、警察活動における「匿名性」を可能な限り排除するという趣旨で定められた名札着用例規は、窓口業務に従事する職員等に、すべての場合において名札の着用を義務付けたものではないことから、ただし書イには該当しない。
-
(イ)ただし書ロについて
- 当該情報の開示不開示が、人の生命、健康、生活又は財産の保護に影響を及ぼすとは考えられず、開示することの必要性は認められないことから、ただし書ロには該当しない。
-
(ウ)ただし書ハについて
- 相談員の身分は、地方公務員法上の特別職に該当するほか、警察法第55条の規定に基づいて実施機関が千葉県警察嘱託職員として任用する警察職員である。また、嘱託職員が警察安全相談を行うことについては、嘱託の取扱いに関する訓令(平成2年4月3日本部訓令第4号)第3条第4号に定められ、警察安全相談員の業務については、警察安全相談員業務要領の制定について(平成13年5月10日例規(警・生総)第37号)により「警察安全相談の受理に関すること」、「警察安全相談に関し、署の担当する職員の補助に関すること」等と定められている。署の警察安全相談受理を担当する職員は、警部補以下の警察官又は同相当職以下の警察官以外の職員であり、このことから警察安全相談員は、警部補相当職以下の警察職員の補助等を業務とする嘱託の身分を有する警察職員であり、嘱託職員を除くと規定されていない以上は、警察職員規則で定める職員に該当するものである。また、その他の氏名等についても、警察職員規則で定める階級にある警察官の氏名であり、ただし書ハには該当しない。
-
(エ)ただし書ニについて
- 当該情報は、開示請求者が既に知っているかどうか明白ではなく、開示請求者と相談受理者等の利害が共通している立場にあるとはいえないことから、ただし書ニには該当しない。
イ職員番号の不開示妥当性について
- 警察職員の職員番号とは、千葉県警察内部における人事管理、給与支給等の管理事務等のために、個々の職員に割り当てられた番号であり、条例第17条第2号に該当し、ただし書イ、ロ、ハ及びニには該当しない。
ウ件名及び措置結果の一部の不開示妥当性について
- 件名欄及び措置結果欄の不開示部分には、本件相談内容に対する受理担当者の評価が記載されており、これを開示することにより、相談内容を警察がどのように評価し、どのように扱うべきかについて、相談者の期待している記載内容ではなかった場合など、相談者と警察の考えが異なることにより相談者の誤解を招き、双方の信頼関係が損なわれるおそれがある。また、相談者に開示することを前提に記載をすることになれば、その内容が当たり障りのないものへと抽象化、形骸化することとなってしまい、相談への適切な措置がとれなくなるなど、警察安全相談業務の目的が損なわれるおそれが認められることから、条例第17条第6号に該当する。
エ開示請求対象文書特定の妥当性について
- 警察安全相談では、新規の相談については警察安全相談受理票(甲)が、継続の内容であれば同受理票(乙)が作成されることとなるが、継続相談の場合、相談内容が以前の相談の進捗状況を確認するようなものであれば、膨大な相談件数を受理している現状から事務の合理化を図るために、同受理票(乙)の作成を省略し、以前の相談受理票に簡記するなどして経過を明らかにしている。
- 審査請求人の2回目の相談については、平成19年11月○○日付け警察安全相談受理票(甲)の措置結果欄の下枠内に手書きで記載されており、新たな同受理票(乙)は作成されておらず、対象文書の特定に不備はない。
(1)本件請求の内容について
本件請求は、平成○○年○○月から請求時までの間に、審査請求人が○○警察署に対して、誰かに付きまとわれている件で行った来署による相談1回と電話による相談2回の相談記録の開示を求めるものである。
(2)条例第17条第2号該当性について
本号は、開示することにより開示請求者以外の第三者の権利利益を損なうことを防止するために定めたものである。そして、本号に該当するためには当該情報が開示請求者以外の個人に関する情報であって、開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの又は開示請求者以外の特定の個人は識別できないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるものであり、かつ、本号ただし書に該当しないことが必要である。
そこで、以下検討する。
- ア実施機関は、本件文書のうち次の情報について本号に該当するとして不開示としている。
- (1)係長以下の決裁欄の印影、受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名
- (2)受理者欄及び措置者(職員番号)欄の職員番号
- イ上記アは、いずれも開示請求者以外の個人に関する情報であって、開示請求者以外の特定の個人を識別できるものである。
- ウ上記アの(1)は、本号ただし書ハの「公務員等の氏名」ではあるものの、「警察職員であって規則で定めるものの氏名」として警察職員規則により定めた警部補以下の階級にある警察職員であり、ただし書ハには該当しない。審査請求人は上記アの(1)の受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名のうち、平成○○年○○月○○日付け警察安全相談受理票に記載された氏名は、嘱託の身分を有する警察安全相談員の氏名であり、当該相談員には階級はなく、警察職員規則で定める職員に該当するという説明に不備があると主張するが、警察安全相談員は、相談の受理と署で相談業務を担当する警部補以下の警察官又は同相当職以下の警察官以外の職員の補助等を業務とする嘱託の身分を有する警察職員であると認められることから、警察職員規則で定める職員に該当すると解するのが相当である。
- エしかしながら、実施機関は、名札着用例規により警察活動における「匿名性」を可能な限り排除するとして、窓口業務を担当する職員等に姓を記載した名札を着用させることとしている。上記アの(1)のうち、受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名は、審査請求人の相談を受理した名札を着用する職員の範囲に定められている警察官及び警察安全相談員の氏名である。実施機関は、名札着用例規は原則として名札を着用することとしたもので、すべての場合において着用を義務付けたものではないと主張するが、名札着用例規には具体的に名札をしない場合の例示や裁量事項又は努力義務であることを示す「原則として」や「努める」などの表現は見当たらず、名札の着用について例外的な取扱いがあるとは認め難く、窓口業務を担当する職員等はこの例規に従い、名札を着用しているものと認められる。また、電話による相談についても、来署していれば担当者は名札を着用しているわけであり、区別する必要はないものと考えられ、受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名のうち名札に記載された姓は、法令等の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報であり、本号ただし書イに該当するものとして開示が相当である。
- オ上記アの(1)のうち係長以下の決裁欄の印影、受理者欄及び措置者(職員番号)欄の氏名のうち名の部分及び(2)については、本号ただし書に該当する事情は認められず、不開示が相当である。
(3)条例第17条第6号該当性について
本号は、県の機関や他の地方公共団体等の事務又は事業に関する情報であって、開示することにより当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものは不開示とすることを定めたものである。
諮問実施機関の説明によると、警察安全相談とは犯罪等による被害の未然防止に関する相談その他安全と平穏に関わる相談であり、受理した相談に対しては、相談者の不安解消のためアドバイスや関係機関の紹介、内容によっては事件化やパトロールの強化などを行うこともあるとのことであり、警察安全相談受理票はその相談内容や対応結果を明らかにするために作成されるものである。
実施機関は本号に該当する情報として、件名欄及び措置結果欄の一部を不開示としているが、この部分には受理担当者の評価が記載されており、これを開示すると、今後の評価の記載内容が当たり障りのない抽象的なものとなり、相談への適切な措置がとれなくなるなど、警察安全相談業務の円滑かつ適正な遂行に支障が生じるおそれがあると認められることから、条例第17条第6号に該当する。
よって、当該情報は本号に該当するため不開示が相当である。
(4)対象文書の特定について
審査請求人は、2回目の相談についての相談受理票がないことから対象文書特定の不備を主張するが、その相談内容は本件文書である「警察安全相談受理票(甲)平成○○年○○月○○日付け受理番号○○○○○○○○○○○○○」の措置結果欄の下枠内に記載されており、受理票(乙)は作成されていないとの諮問実施機関の説明に特段不合理な点は認められず、他に該当する文書が存在することを窺わせる事情も認められない。
(5)結論
以上のことから、「1審議会の結論」のとおり判断する。
審査請求人のその他の主張は、本件決定の適否に関する審議会の判断に影響を及ぼすものではない。
審議会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審議会の処理経過
年月日 |
処理内容 |
平成22年3月17日 |
諮問書の受理 |
平成22年5月26日 |
諮問実施機関の理由説明書受理 |
平成22年7月8日 |
異議申立人の意見書受理 |
平成22年12月20日 |
審議(第192回審議会) |
平成23年1月24日 |
審議(第193回審議会) |
平成23年2月14日 |
審議(第194回審議会) |
平成23年4月18日 |
審議(第195回審議会) |
平成23年5月23日 |
審議(第196回審議会) |
答申第112号(平成23年5月30日付け)(PDF:315KB)
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