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更新日:令和5(2023)年11月21日
ページ番号:621706
発表日:令和5年11月21日
県立中央博物館
駒井 智幸(こまい ともゆき)県立中央博物館 動物学研究科長
掲載誌 『Zootaxa 5361 (2): 263-274』
論文タイトル A new intertidal species of the thorid shrimp genus Heptacarpus Holmes, 1900(Decapoda: Caridea) from Japan
トゲツノモエビ属Heptacarpusは、分類学的には十脚目 コエビ下目 ヒメサンゴモエビ科に属するエビ類で、磯や藻場でよくみられる小さなエビの仲間です。本属はこれまでに33種が知られていましたが、全種が東アジアから北米にかけての北太平洋に分布し、各種の地理的分布はかなり狭い範囲に限定される傾向があります。
日本周辺海域からは14種が記録されていて、房総半島の磯や藻場では、トゲツノモエビ属のアシナガモエビやコシマガリモエビが普通にみられます。
県立中央博物館では、開館時から継続して房総半島周辺海域に棲む甲殻類の調査を行ってきました。今回発見された新種は、これらの調査により勝浦市から鴨川市の磯3箇所から発見されました。
体長2.5センチメートルほどの小さなエビで、いずれも大潮の干潮時にできた汐だまりで得られ、アシナガモエビと一緒に採集された場所もありました。
形態を詳細に調べたところ、雌と雄で体の大きさ(雌の方が大きい)や第1胸脚のハサミの形態に差があり、同時に採集されたアシナガモエビよりもジョルダントゲツノモエビに近縁であることがわかりました。さらにDNA解析を行ったところ、ジョルダントゲツノモエビとは別種であり、新種であることがわかりました。
学名は、本新種の標本の収集に大きく貢献した県立中央博物館の支援研究員である佐土 哲也(さど てつや)博士に献名し、Heptacarpus sadoiと命名されました。
ボウソウトゲツノモエビの抱卵した雌(勝浦市大沢産)
ボウソウトゲツノモエビの雄(勝浦市大沢産)
房総半島沿岸は比較的、海産生物についての研究が進んでいますが、今回発見された新種は、一般の方でも磯遊びのできる場所で見つかったもので、予想外の発見となりました。今回の発見により、身近な環境にも未知の種が存在することがわかります。また、本新種は房総半島以外では採集例がなく、分布域についてはよくわかっていないことから、当館では今後も調査を継続し、多種多様な生物が生活する豊かな海について研究を続けていきます。
十脚目甲殻類の分類を研究テーマに、比較形態学とDNA配列情報を用いて、十脚類の種多様性を解明している。十脚目甲殻類の分類・多様性に関する原著論文を359編公表(2023年3月31日時点)し、記載した新種は400種を超える。また、図鑑NEOシリーズの「水の生物」「深海生物」(小学館)やバイオディバーシティ・シリーズ「節足動物の多様性と系統」(裳華房)などに分担執筆者として参加し、研究成果をわかりやすい形で紹介している。
World Ranking of Top 2% Scientists in 2022(スタンフォード大学と学術出版社Elsevierが共同で発表する全世界の科学研究者の論文引用に関するデータベースに基づいたランキング)で世界の研究者の上位2パーセントにランクインした。
県立中央博物館 動物学研究科 科長 駒井智幸
電話 043-265-3111
メール komai(アットマーク)chiba-muse.or.jp