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更新日:令和5(2023)年9月1日
ページ番号:603447
山武地域のイチゴ栽培では、観光直売を中心に、天敵を利用したハダニ類の防除方法が定着しており、収穫期を中心に化学合成農薬の使用回数が減少傾向にあります。一方で、これまで問題でなかったアザミウマ類による被害が増加しており、それを踏まえた防除体系の確立が急務となっています。しかし、天敵への影響が少ない農薬は種類が少なく、連用すると薬剤抵抗性が問題になることから、アザミウマ類の防除が困難になることが予想されました。そこで、天敵を利用したアザミウマ類の防除体系の現地実証に取り組みました。
アザミウマ類の天敵として登録されている資材には、『リモニカ』(成分名:リモニカスカブリダニ)と『ククメリス』(成分名:ククメリスカブリダニ)があります。山武地域では『リモニカ』が導入されていましたが、高価である上に、生産者の評価が低く、導入農家数は減少傾向にありました。そこで、『リモニカ』と比べると安価である『ククメリス』の防除効果を確認し、『リモニカ』と比較しました。(表1)
表1 アザミウマ類に登録がある2つの天敵資材における特徴比較
『ククメリス』 (ククメリスカブリダニ) |
天敵資材 有効成分 |
『リモニカ』 (リモニカスカブリダニ) |
---|---|---|
雌=約0.3mm 薄ベッコウ色 | 大きさ・体色 | 雌=約0.2~0.3mm 乳白色~淡黄色 |
12~35℃ | 活動可能温度 | 10~30℃ |
20~30℃・65%以上 | 適温・適湿 | 20~30℃・高湿度を好む |
アザミウマ1齢幼虫 ※1 | 捕食対象害虫 | アザミウマ1齢幼虫 ※2 |
約6頭 | 捕食数/日 | 約6~7頭 |
約2卵(25℃) | 産卵数/日 | 約3~4卵(25℃) |
※1 アザミウマ類の他にホコリダニ類とハダニ類を捕食する。
※2 アザミウマ類の他にコナジラミ類とホコリダニ類を捕食する。
写真1 天敵による害虫捕食の様子(ククメリスカブリダニ)
写真2 天敵による害虫捕食の様子(リモニカスカブリダニ)
(写真1及び2:アリスタライフサイエンス株式会社提供)
令和2年度の調査では、10月13日にベネビアODを散布し、アザミウマ類の密度を低下させてから、『リモニカ』は10月27日、『ククメリス』は11月6日にそれぞれ天敵を放飼しました。
表2 各試験国おける天敵と農薬の散布概要
調査区 | 『ククメリス』放飼区 | 『リモニカ』放飼区 |
---|---|---|
天敵放飼前防除 | ベネビアOD(10月13日) | ベネビアOD(10月13日) |
天敵放飼日 | 11月6日 | 10月27日 |
導入本数(コスト) | 3本/10アール(1万8千円) | 2本/10アール(6万円) |
追加放飼 | なし※ | なし |
※『ククメリス』は年明け後に追加放飼が推奨されているが、アザミウマ類の発生が確認されない上、ククメリスカブリダニの一部越冬が確認されたため、本試験では追加放飼を行わなかった。
図1 青色粘着板によるアザミウマ類のトラップ数推移
天敵放飼後は両放飼区12月1日にウララDF(250L/10アール:1230円)、『リモニカ』放飼区のみ3月18日にカウンター乳剤(250L/10アール:3120円)をそれぞれ散布しました。青色粘着板による捕殺調査では、両試験区で大きな差は見られず、被害果は収穫を行った5月8日までの間、確認されませんでした。10アール当たりの防除コストは『ククメリス』放飼区で19,230円、『リモニカ』放飼区で64,350円となり、『ククメリス』放飼区は『リモニカ』放飼区の3分の1程度のコストで同程度の防除効果があることがわかりました。
天敵を利用したアザミウマ類防除を行う場合、天敵を放飼する前に農薬等によりアザミウマ類の密度を下げておくことが重要です。また、アザミウマ類の発生量が多い年や発生しやすい地域では、天敵の導入に合わせて農薬散布や粘着板の設置などの物理的防除法も組み合わせる必要があると考えられます。
近年、アザミウマ類の薬剤抵抗性は発達しており、天敵の利用が広まることで被害拡大防止に繋がると期待できます。
初掲載:令和5年8月
農林総合研究センター水稲・畑地園芸研究所
水田利用研究室
研究員 原田 大樹
電話番号:0478-56-0002
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