ここから本文です。
ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農業・畜産業 > 普及・技術 > 千葉県農業改良普及情報ネットワーク > フィールドノート履歴一覧 > フィールドノート令和5年 > フラワーネットを用いた簡易式大苗育苗方法の確立
更新日:令和5(2023)年1月12日
ページ番号:557086
ニホンナシ栽培で定植時に大苗を用いると、未収穫期間が短縮できる上に定植前に均一な大苗を選抜でき、定植後の生育不良のリスクを軽減できます。しかし、慣行の架線式大苗育苗施設(以下、架線式)は大型で設置に時間がかかることから、個人で実施する場合の課題となっています。そこで、新たに考案した簡易式大苗育苗施設(以下、簡易式)を用いて、小規模で導入可能な簡易な大苗育苗方法を千葉県農林総合研究センターで開発したので紹介します。
考案した簡易式は、高さ5メートルの支柱にフラワーネットを3段に設置した構造です(図1、写真1)。従来の架線式では主枝となる新梢の伸長に合わせて定期的に架線に誘引する必要があります。一方、簡易式では、主幹上部に設置したフラワーネットを主枝の伸長に合わせて上方に移動させることで倒れるのを防ぎます。1本ずつ誘引を行う必要がなく能率的です。
※画像をクリックすると、大きい画像が表示されます。
図1.簡易式大苗育苗施設の概要図
注)支柱及びネットの幅は2本主枝一文字整枝用大苗の場合は60センチメートルとし、ジョイント仕立て用大苗の場合は40センチメートルとする
写真1.簡易式大苗育苗施設(長さ12メートル)
植え付けは不織布ポットに定植した1年生苗木を樹形に応じて30又は40センチメートル間隔で設備の中央に一列で行います。苗木の切り返し位置は極力揃え、フラワーネットはせん定位置の5センチメートル上方に3段分まとめて設置します(図2(a))。
新梢の管理は、主枝となる新梢の生育に応じて一番上のフラワーネットを上方に移動させます。フラワーネットの間隔が80センチメートル程度になったら2番目のフラワーネットを上方に移動させ、それ以降は3枚のフラワーネットの間隔が広がりすぎないように注意して移動させます(図2(b、c))。なお、フラワーネットを下方に移動させると落葉したり芽を欠いたりするので、移動は上方のみにするように注意します。
大苗を掘り上げる際は、フラワーネットを3段すべて高さ2.5メートル程度の位置に上げてまとめます。その後、株元を掘り、大苗を移動できるように準備します。最後に、大苗の根部を地上へ持ち上げ、そのまま横にずらして、新梢の先端をフラワーネットの下側へ抜きます(図2(d))。
図2.簡易式大苗育苗方法(定植から掘り上げまで)
1年生「幸水」を用いて、簡易式と架線式で大苗育苗を行った結果、2本主枝一文字整枝用大苗では、簡易式の主枝長は、1年目が155センチメートル、2年目が286センチメートルで架線式と同程度でした(表1)。また、2年目は主枝部位から新梢が発生し、フラワーネットで固定されやすくなりました。
表1.樹形別の大苗の生育(平成29、30年)
上記の実証試験における各育苗法の作業時間を計測した結果、1樹当たりの作業時間は、2本主枝一文字整枝用大苗(1年育成)の場合、簡易式が43分、架線式が59分でした(表2)。ジョイント仕立て用大苗の場合、簡易式が25分、架線式が42分でした。いずれの樹形の大苗も簡易式は架線式より作業時間を削減できることが明らかとなりました。
表2.異なる整枝法及び年次での大苗1樹の育苗にかかる作業時間(平成29、30年)
(PNG:19.7KB)
※表をクリックすると大きな画像が表示されます。
注)調査は、平成29年当時ニホンナシ栽培歴2年の30代男性が中心に行った
また、図1のような長さ12メートルの簡易式大苗育苗施設(ジョイント仕立て用40本又は2本主枝一文字整枝用30本を植栽可)の設置コストは、4.6万円程度が必要と試算されます。
以上より、開発した簡易式大苗育苗方法では主枝の生育がやや劣る傾向がありましたが、作業時間の大幅な削減が見込めました。設備が簡易で、設置及び撤去が容易であることから、小規模で大苗育苗する場合に適していることが明らかとなりました。
なお、本情報は令和3年度試験研究成果発表会(果樹)(令和3年度試験研究成果普及情報)で発表したものです。
初掲載:令和5年1月
山武農業事務所
改良普及課北部グループ
上席普及指導員 吉田 明広
電話番号:0475-54-0226
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください