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更新日:令和6(2024)年5月8日
ページ番号:7030
日本人の主食であるコメは、神事や祭りなど地域の伝統文化の源泉でもあり、私たちに欠かすことができない作物です。千葉県は早場米の産地であり、コメの農業算出額は全国第7位を誇ります(平成26年産)。
しかし、生業(なりわい)としてのコメ作りにはさまざまな問題を抱えています。
ピーク時の昭和30年代には一人当たり約120kg(2俵)でしたが、食生活の多様化等に伴い、現在は60kg(1俵)を下回っています。
さらに近年は少子高齢化が進んでおり、コメの消費量は今後一層減少することが予想されます。
米の消費量の減少グラフ(引用:米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針)
農業は他の産業と比較して高齢化が進んでいると言われますが、中でも稲作農家の平均年齢は70歳を超えており、コメ作りの担い手不足が問題になっています。
先述のようにコメの消費量が減る(=需要が減る)と米価は下落する傾向にあります。
消費者にとってお米を安く買えることはメリットと言えますが、高齢化が進むコメ作りの現場にとっては、このままではコメを作り続けることが難しくなってしまいます。
さらに、コメ作りをやめてしまった田んぼは耕作放棄地になってしまうおそれもあります。
このような、コメ作りをとりまく課題に対して、様々な取組が進められています。
とくに、ハード的な対策として実施されている「農地整備(農地の区画整理)」には次のような大きな効果があります。
不整形で小さな田んぼが、区画整理工事により四角く整形されたほ場(大区画化)へと整備されると、大きなトラクターやコンバインを使うことができるようになるため、作業効率が大幅に向上します。
近代的な農地整備を行うと、用水路は水道のようにパイプライン化され、蛇口をひねれば水がでるようになります。農作業道も整備されるので、作物を栽培する時の農作業が楽になります。
また、ぬかるみやすかった田んぼの水はけが良くなり、コメ以外の作物を栽培することが可能になるので、生産性も向上します。
イメージ写真(上段:昭和初期の稲作,下段:農地整備後の稲作)
農地整備を行う際には、地元農家の方々を中心とした話合いを通じて、地域の担い手を決め、その担い手へ農地を集積する計画を作ります。
これらの取組を通じて、米価の下落にも耐える足腰の強い担い手が育成されることとなります。
以上のとおり農地整備には様々な効果がありますが、工事を行うためには、いくつかのハードルがあります。
1つ目は、土地の権利移動等を伴う大がかりな工事になるため、法律に定められた手続が必要となり、工事までに数年を要することになります。
2つ目は、農地整備は公共事業として実施されますが、事業の制度上、地元にも事業費を負担していただく必要があるため、農家の方にとって負担金の支払いが経営の重荷になってしまうおそれがあります。
また、経営を左右するコメの生産コストは、経営する耕作面積が10~15ha程度まではコストの低減効果が大きいのですが、一定面積を超えるとコストは殆ど低減されなくなります。
これは、耕作面積を拡大しても、それに比例して人手(労働費)が必要になるため、担い手の「もうけ」にはつながらないことが原因とされています。
(グラフの出典:政府統計(e-stat)平成24年産米生産費から耕地課作成)
そこで、千葉県では国の支援制度を活用しつつ、次のような取組をはじめました。
中山間地域や谷津田などの未整備の農地を整備するためには、従来どおり、しっかりとした計画を立て時間をかけて整備する必要があります。
しかし、過去に一度、農地整備をおこなった平坦な地域では、従来の整備手法では過剰になる部分もあることから、工事までの手続の簡素化と必要最低限な整備の方法を検討することとしました。
これにより、工事着工までの期間と、整備に要する費用の負担が大幅に軽減されることが期待できます。
〔従来方式に要する時間の例〕
従来方式 |
1年目:地元の話合い | 2年目:事業計画策定 | 3年目:法手続、国への申請 | 4年目:換地原案作成 | 5年目:工事着工 | 6年目:工事中 |
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〔新たな方式に要する時間の例〕
新たな方式 |
1年目:地元の話合い,農地の集積 | 2年目:国への申請,工事着工 | 3年目:作付け |
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豪州型の農地整備は、ほ場を集約化(面的にまとめる)して2ha~4ha程度の巨大な区画に整備することで、今まで個々のほ場に設置してきた給水栓(用水の蛇口)や排水施設を少なくすることが出来ます。
また、整備に必要なコストが少なくなると共に、日常の維持管理や将来の修理費も抑えられます。
さらに、乾田直播(乾いた水田に直接モミを播く)等の巨大区画にふさわしい稲作体系を導入することで、コメの生産コストの大幅な低減が可能になります。
〔従来の農地整備のイメージ〕
従来の整備は、それぞれの水田に給水栓(蛇口)を設置し、道路や排水路にも接続するように整備しました。田んぼ一枚一枚を異なる農家が耕作することを想定し、同一の整備内容になるように工事します。
〔豪州型の農地整備のイメージ〕
豪州型の農地整備は、1つのエリアを1農家が耕作することを想定しています。耕作する人が同一であれば、給水栓や排水施設などを大幅に減らすことができます。その結果、工事費や維持管理費も安く抑えることができます。
※今回の検討においては、豪州型の農地整備により工事コストと稲作コストの低減を提唱されている筑波大学の石井敦教授の研究を参考とさせていただきました。
豪州型の農地整備と乾田直播などの稲作体系の導入により、今まで以上に大きなトラクターやコンバインを使うことが出来るようになります。その結果、農業に従事する一人当たりが耕作できる農地の面積がさらに広がることが期待されます。
現在、国内の一人あたり耕作可能面積は十数ヘクタールと言われています。
豪州では一人あたり60~80haを耕作しているという調査結果があり、その差は一見とても大きく感じられます。
しかし、国内でも麦や大豆との複合経営により、420haを3名で耕作している地域もあることから、決して不可能な取組ではないと思われます。
今回ご紹介した取組は、あくまでも農地整備の手法の一つです。
中山間地域など地形条件が厳しい地域で同様の取組を進めようとするものではありません。
しかし、近年のコメ作りを取りまく社会的な情勢を踏まえると、一定の条件を満たす地域においては、このような取組を進めていく必要があるものと考えています。
現在、手賀沼周辺の農地において、簡易な手続・工事による豪州型の農地整備を計画中です。
この夏にはインターンシップに参加中の大学生に手伝ってもらい、工事予定の水田の測量を行いました。
炎天下にも負けず、ゲリラ豪雨にも負けず、3日間がんばって調査しました!
現地は既に30a区画に整備された水田が整然と広がっていますが、稲刈りを終え、冬を迎える頃には、さらなる巨大区画水田に生まれ変わっているかもしれません。
今年の秋は台風が何度も襲来し、各地で農業被害が発生しました。
手賀沼周辺でも稲刈りの直前に田んぼがぬかるんでしまい大変でしたが、工事予定の水田は無事、収穫を終えることができ、いよいよ工事開始です。
今回の工事は、国からの支援を受け、農家の方自らが工事を行います(直営施工と言います)。
このような手法により、公共工事として発注するよりも、迅速に、経済的に、地域の要望に沿った整備をしやすいというメリットがあります。
もちろん、難しい本格的な工事を直営施工で行うことは難しいですが、今回の豪州型の農地整備のように、「農地の簡易な再整備」であれば直営施工も可能です。
豪州型の農地整備は、乾田直播の導入(乾いた田んぼに種モミを播くこと)により、コメの生産コストを大幅に低減することが目的です。
種モミを播く時に水田が乾いている必要があるため、地中の水分を抜けやすくする「暗渠排水(湧水処理)」という対策工事を行いました。
まず、モミガラを用意します。モミガラは、地中の水分を浸透させるフィルター材の役割をします。
モミガラは梱包用の資材に使えるため、最近では手に入りにくく貴重になっています。
ちなみに、この工事で使用したモミガラは、NPOからの依頼を受け、障害者の方を雇用してパッキングしたそうです。
上の写真の資材は「吸水渠」という役割に使用します。
小さな穴が無数に空いた塩ビ管や合成樹脂製のコルゲート管を使用します。
資材の準備が整い、いよいよ掘削開始です。
田んぼの水はけが悪い場所を掘削します。通常は、専用の機械で狭い溝を掘りますが、この現場は軟弱地盤で掘った溝がつぶれやすいため、バックホウを使って通常よりも広く掘りました。
建設会社が掘削したようにまっすぐです。上手い!
掘削したら速やかにモミガラを投入します。
周辺の水はけが悪いため、掘った溝に地下水が湧いてきます。そこで、投入したモミガラを踏みしめながら進むことで、溜まった水を押しのけつつ溝が崩れてつぶれてしまうのを防いでいます。
通常の工事はポンプで水を吸い出すので大がかりになってしまいますが、この現場ではモミガラと人の力を工夫して上手く対策をしています。
貴重なモミガラを贅沢に使うのも理由があるんですね。
ある程度モミガラを投入して平らに踏み固めたら、吸水渠を水平に丁寧に埋めていきます。
吸水渠がデコボコでは地下水が流れにくくなってしまうので、注意が必要です。
ここでもモミガラをしっかり平らに踏み固めた効果が生きています。
この地域で長年耕作している経験豊富な大規模農家ならではの技術に感服です。
敷設した吸水渠の上にさらにモミガラを投入したら、最後に土を埋め戻します。
掘ったときに水田に元々あった土(表土)は、今まで農家の方が肥料を入れたり手間をかけてきました。コメ作りのためにとても大切な土なので、元にあった位置にていねいに埋め戻します。
これで、ひとまず湧水処理の工事は完了です!
地下に埋設する湧水処理の工事が一段落したら、次は水田の区画を大きくする「整地工事」に取りかかります。
乾田直播のコメ作りといえども、イネが育つにつれて田んぼに水を張る必要があります。
田んぼに水を張ることで、雑草が生えるのを防いだり肥料などをまんべんなく行き渡らせることができますが、田んぼがデコボコだと、まだ小さな苗が水中に潜ってしまったり、地面が露出した場所から雑草が生えてしまいます。
そのため、田んぼを平らに整地することはコメ作りの成否を決めるといっても過言ではありません。
今回の工事では、通常の何倍もの広さの水田を作るので、平らに整地するのも大変です。
そこで、レーザーレベラーというハイテク機械を使って整地することにしました(詳細は後ほど)。
レーザーレベラーを使った整地工事は外見よりも手間がかかる精密な作業のため、平らに整地するための事前の準備が大切です。まず、トラクターの後ろにプラウという大きな爪のようなアタッチメントを着けて、田んぼを耕します。
こうして田んぼの表面を耕し、表土を反転して粗くしておくことで、雨や霜により表土が砕けて、だんだん細かくなっていきます。それにしても広い!
耕起した水田を遠くから見ると、土の色が違う場所があることに気がつきます。
プラウで掘り起こしたことによって昔の土が表面に出てきているようです。
茶色い土は、その昔に低くて水はけが悪い場所に外部から土を運んで盛ったためです(これを客土といいます)。
気温が下がり乾燥する時期になると、土も乾いて整地がし易くなるので、このまま本格的な冬の到来を待ちます。
寒さも厳しくなり、乾燥した日が続き、プラウで耕した田んぼの表面も乾いてきました。
いよいよレーザーレベラーの登場です!
レーザーレベラーは大型トラクターの後ろに装着して整地するための機械です。
上の写真に写っている背の高い三脚に載った送信機から、水平にレーザー光線が発信されています。
トラクターに装着された受信機は、発信器からのレーザーを受信しながら、レーザーレベラーの爪(均平板)を常に一定の高さに維持し続けます。
一般的に、土木工事で整地をする場合はブルドーザーを使いますが、ブルドーザーで平らに整地するのは、想像以上に難しく、オペレーターの技術力に左右されることがあります。
レーザーレベラーというハイテクな機械を装着したトラクターで走り回ることで、非常に精度の高い平らな田んぼに仕上げることができます。
今回は、大区画といわれる1haを大きく上回る最大2.5haまで区画を拡大するので、ハイテクのレーザーレベラーといえども、平らに整地するのは簡単ではありません。
そのため、同じ田んぼを何回も整地し直しました。ひたすら走る!走る!
春の声が聞こえる頃、ようやく整地の終わりが見えてきました。
グランドのように広く乾いた田んぼです。
ちょっと広さが分かりにくいので、別のアングルから撮影してみました。
写真手前の人物の左右にある田んぼ(稲わらが残っている)が標準区画です。
その奥の、表面がサラサラした感じの田んぼが大区画です。
遠近感が狂うような広さになりました!
4月になると、いよいよ「乾田直播」に取り組むことになります。
※このページでは、今後の取組の進捗にあわせて、随時、情報を更新していきたいと思います!
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