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更新日:令和6(2024)年2月19日
ページ番号:6002
「梅(うめ)の木のある家が庄屋(しょうや)の太郎兵衛(たろべえ)どんの家。あのおしめのほしてある家が新婚(しんこん)の太助(たすけ)の家。竹薮(たけやぶ)の隣(となり)が三郎(さぶろう)の家だ」
山頂(さんちょう)から川畑(かわばた)・三又(みまた)・黒原(くろはら)地区全体が見わたせた。木の葉が散った冬は、ことのほかよく見えた。
二月のある日のことだった。
山から吹き下ろす風が、竹薮をザワザワならしていたが、夜中になると止んだ。空をおおっていた厚い雲が切れ、月が村を照らしていた。静まりかえった村を、頬被(ほおかぶ)りしカゴを背負った人影が動いている。やがて、人影は大きな屋敷(やしき)に入った。中庭をはさんで母屋(おもや)に面する納屋(なや)の戸をゆっくり開けた。泥棒(どろぼう)だ。
しばらくすると、泥棒は納屋から出てきた。かごにこぼれんばかりにタケノコがつまっている。タケノコは貴重品(きちょうひん)だ。まして、この時季(じき)のタケノコは大多喜城下の旅籠(はたご)や料亭(りょうてい)で高く売れる。
やがて、泥棒が丸木の一本橋にさしかかった時だ。
ウオーウオー
ウオーウオー
・・・・・
腹からしぼり出すような犬の声が山の頂から響いてきた。
「何だ。何だ・・・あの、声は」
村中が目を覚まし、外に出た。
泥棒はあわてた。預から響く声は、地獄の使者かと思われるほど不気味に聞こえた。
「ワー、化け者。化け者だ・・」
泥棒は背中のカゴを放りだすと、一目散にかけだした。あたりには、たくさんのタケノコが散らばっていた。
川畑・三又・黒原地区を見下ろす山の頂に犬の形をした大きな石がある。泥棒の侵入(しんにゅう)を教えてくれたのはこの石だった。
その後も、川畑、三又・黒原地区に泥棒が入ると、犬のような鳴き声をして知らせたという。
やがてこの石は「夜泣き石(よなきいし)」とか「犬石(いぬいし)」と呼ばれ、崇(あが)められた。
また、この石のある山を「犬石山(いぬいしやま)」と今も呼んでいる。
おしまい
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