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更新日:令和6(2024)年2月19日
ページ番号:5995
むかしむかし、大多喜に寅吉(とらきち)という男が住んでいた。一人暮らしなので近所の人が
「アユがとれたからもってきた」
「初物のイモだ。食べてくれ」
と何かと世話をやいてくれた。
ある日、親戚(しんせき)の者がやって来た。
「寅吉(とらきち)や、たいへんだ。おまえの悪い評判(ひょうばん)がたっているぞ」
「いったいどんな」
「ようく聞けよ。おまえは、もらうだけで、お返しをしないという評判(ひょうばん)だ」
寅吉(とらきち)は考えた。(町に出て饅頭(まんじゅう)か手ぬぐいでも買ってこようか?)
そうこう考えているうちに、お返しのことなどすっかり忘れていた。半年が過ぎ、春になった。
親戚(しんせき)がまたたずねてきた。
「寅吉(とらきち)、まだお返しをしていないだろう。また、評判(ひょうばん)がたっているぞ」
「そうだ。すっかり忘れていた」
「ほんとうに、しょうがない奴だ」
「饅頭(まんじゅう)にしようか。手ぬぐいにしようか・・・おれなりに考えたよ。でも、忙(いそが)しくてなかなか町に買いにいけないんだ」
「なにも、饅頭(まんじゅう)や手ぬぐいでなくていいんだ」
「じゃあ、どんなお返しを・・・」
「そうだ。今はタケノコの時期だ。タケノコでも持って行けばいいんだよ」
「タケノコでいいのかい」
「そうだ。タケノコでいいんだ」
翌日(よくじつ)、寅吉(とらきち)はタケノコを三本掘(ほ)ってお返しに出かけた。
「いつもお世話になっています。これ、めしあがってきださい」
とタケノコをさし出した。
「おお、初物だ。ありがたい。寅吉(とらきち)は竹林をよく手入れしているのか、いいタケノコだこと」
と言ったので寅吉(とらきち)は
「いやいや、それは竹山のタケノコではなくて、裏の便所(べんじょ)のそばにはえていたものです。」
と言った。すると
「そうそう、わたしのところにもタケノコはあった。だからけっこうだ。」
寅吉(とらきち)はしかたなく、三本のタケノコを持って次の家にお返しに行った。
「タケノコか。いまが旬(しゅん)だね」
とどの家もはじめは喜んでくれた。しかし、「便所のそばにはえていたタケノコです」と言うと「わたしの家にもタケノコはあった。けっこうだ、持って帰ってくれ」という。
こんな具合に寅吉(とらきち)はタケノコ三本持って、お礼に歩いたと。
おしまい
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