ハゼも「ミステリーサークル」をつくる?サキンハゼが巣の周りに放射状構造を形成する行動を解明
発表日:令和8年1月14日
県立中央博物館 分館海の博物館
県立中央博物館 分館海の博物館(勝浦市)の川瀬 裕司(かわせひろし)主任上席研究員らは、サキンハゼの雄が巣の周りに放射状の溝とクレーター状のくぼみを形成することを明らかにしました。
この研究成果は、2026年1月9日に、スイスの科学雑誌Fishesで公開されました。
川瀬主任上席研究員らは、2013年に海底に円形幾何学模様の「ミステリーサークル」をつくるフグの繁殖行動を世界で初めて報告しました。今回、全く別の分類群のハゼが異なる方法で巣の周りに「小さなミステリーサークル」を形成して、繁殖していることを解明しました。

巣の周りに形成された放射状の溝(上)、卵保護をするサキンハゼの雄(左下)と貝殻に産み付けられた卵(右下)
論文の著者
川瀬 裕司(かわせ ひろし)千葉県立中央博物館分館海の博物館 主任上席研究員
津波古 健(つはこ たける)潜水案内沖縄 ダイビングインストラクター
研究の概要
研究の背景
川瀬主任上席研究員らは、全長およそ10センチメートルの小さなフグ(アマミホシゾラフグTorquigener albomaculosus)が、直径2メートルもある円形幾何学模様の構造物「ミステリーサークル」を海底に建設して繁殖していることを、奄美大島で発見し、2013年に科学雑誌Scientific Reortsで報告しました。この発見は国内外で大きく報道され、動物全体で見ても前例のない精巧な構造物をつくる魚として紹介されました。
このフグの研究を進めている最中に、沖縄本島沿岸の浅い海底でハゼ科の一種(後にサキンハゼHazeus ammophilusと命名される)が「小さなミステリーサークル」をつくっていることがわかり、2018年から現地で本格的な潜水調査を開始しました。
研究の内容
沖縄県国頭郡金武町沿岸の水深約8メートルの砂泥底で潜水調査を行ったところ、サキンハゼの雄は二枚貝の殻や陸上植物の枯葉などを産卵巣として利用しており、その周りには3から20本の溝が放射状に形成されていることが確認されました。
溝を含めた大きさは、長径115 ミリメートル、短径68 ミリメートル(平均値)で、その外縁の形状はいびつな楕円形をしていました。
巣ができると雄は雌を巣に誘ってペアで産卵し、雌が去った後、雄は鰭を扇いで卵に水を送ったり、卵捕食者が現れると巣に砂をかけて隠したりして、孵化まで雄が単独で卵保護を行いました。
また、室内で水槽実験を行ったところ、雄が巣から外側に向かって進みながら鰭で溝を掘る行動を様々な位置から繰り返し、巣に砂が溜まって巣が埋没すると、溜まった砂を鰭で吹き飛ばし巣を空にしました。これらの行動を繰り返すと、巣の周りに放射状に溝が形成され、砂の堆積によって巣の周りがクレーター状になることがわかりました。
研究の意義
砂泥底のような開けた場所は外敵に狙われやすいため、巣穴を掘ってその中で繁殖するハゼが多いのですが、サキンハゼは砂泥を巧みに利用して、海底で巣に利用できる基盤を見つけて営巣していました。これは、多様な環境に適応して生息しているハゼ科魚類の繁殖行動の可塑性を示しています。
自然環境では必ずしも放射状構造やクレーター状構造が発達しないものの、それらを構築する行動基盤を備えており、フグのつくる「ミステリーサークル」と同様に、その構造物自体が雌による配偶者選択に関係している可能性を示唆するもので、魚類の繁殖行動の多様性を理解する上で重要な知見となります。
掲載誌・論文タイトル
掲載誌 Fishes
タイトル Nesting and reproductive behavior of the sand-dwelling goby Hazeus ammophilus (Gobiidae) with radial ditches around its nest
問い合わせ
県立中央博物館 分館海の博物館 主任上席研究員 川瀬 裕司(かわせひろし)
電話 0470-76-1133
補足説明
2021年に新種として報告されたハゼ科の魚で、全長は約45ミリメートルに達する。熱帯海域の浅い砂泥底に生息し、日本では沖縄本島、西表島、奄美大島などから知られている。
2014年に新種として報告されたフグ科の魚で、全長は約100ミリメートルに達する(下の写真右上)。これまでに奄美大島周辺や沖縄本島から確認されているが、ごく限られたエリアでのみ知られている。
海底にできた円形幾何学模様の構造物のこと。これが初めて見つかったのは1995年頃であるが、2011年に小さなフグがつくっていることがわかるまでは、なぜこのような構造物が海底に出現するのか謎だったため、地元のダイバーによって「ミステリーサークル」と名付けられた。

動物が繁殖相手を選ぶ行動で、雌が雄を選択する例が多い。このため、雄は雌に選択されるように様々な求愛行動が発達したり、大きな体や立派な角(例:シカ)、派手な体色や羽(例:クジャク)を持つことがある。また、配偶場所の周りに特定な色の木の実や人工物を集めて並べたり(ニワシドリ科の鳥)、水底に砂で出来た大きなマウンドをつくる(カワスズメダイ科の魚)例も知られている。
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