県立中央博物館の研究員が日本魚類学会賞の初代受賞者に!
発表日:令和5年10月12日
県立中央博物館
令和5年9月に開催された「2023年度日本魚類学会年会」において、県立中央博物館(千葉市)の宮 正樹(みや まさき) 主任上席研究員が、新たに創設された日本魚類学会賞の初代受賞者となりました。
遺伝子情報を利用した魚類研究を中心に、バケツ1杯の水に漂うDNAを分析するだけで水中に棲む魚種を判定する技術を開発するなど、数多くの画期的な研究成果を上げてきたことが高く評価されました。
受賞の概要
授賞式の様子 (左)魚類学会長(右)受賞者
宮 主任上席研究員は、世界に3万5千種いるといわれている魚類の生態や起源を、遺伝子情報を利用して研究しています。
魚類の分析に多用されてきたミトコンドリアゲノムの高速解析法を開発し、三つの科に分けられていた深海魚が一つの科の仔魚・雄・雌であることや、ウナギ属が深海起源であること、新科・新属・新種のウナギ目魚類を発見するなど、多くの謎に包まれていた魚類大系統を世界に先駆けて解き明かしました。
また、バケツ1杯の水に漂う環境DNAを分析するだけで、棲んでいる魚種を網羅的に解析する技術(MiFish法)を開発し、これまで手間や費用がかかり高度な専門的知識が必要だった魚類群集モニタリングを、水を汲むだけで誰でも迅速にできるようにしました。MiFish法はその性能のよさと手軽さが国際的に高く評価され、世界で広く使われる標準法となっています。
これらの業績等を評価され、本賞を受賞しました。
宮 正樹プロフィール
県立中央博物館 動物学研究科 主任上席研究員(農学博士)。1987年の博物館開館に携わり、その後も博物館でDNAをマーカーにした魚類の分子系統・生態研究を進めてきた。
研究成果は187編の論文として発表され、これらの論文は通算18357回引用されている(2023年9月12日時点)。2021年版「World's Top 2% Scientists」では、上位2パーセントにランクされた200196人の世界の研究者のうちの57886位に位置づけられた。一般向けの単行本執筆や児童向け図鑑の監修など、魚類学の教育普及にも積極的に取り組んでいる。
宮 主任上席研究員 受賞コメント
私が魚と触れるきっかけとなったのは小中学校時代に夢中になった釣りです。それ以来50年以上さまざまなかたちで魚と関わってきましたが、研究という創造的な仕事で既成概念を覆す数多くの成果を上げられたことを誇らしく思います。また、新たに創設された日本魚類学会賞の初代受賞者になったことは大変名誉なことで嬉しく思います。
博物館では子供たちと接する機会が多いですが、彼ら彼女らに夢を与えられるように今後も精力的に研究を進めるつもりです。
(一社)日本魚類学会について
日本魚類学会(会長(代表理事)井口恵一朗 長崎大学大学院教授)は、魚類学の進歩と普及を図ることを目的に1968年4月設立された。会員数は約1300名(団体会員含む)で、大学等の研究者や学生の他、ハゼ類の分類学的研究を進めている明仁上皇や、千葉の海・大使を務めるさかなクンも会員となっている。
日本魚類学会の学会賞には日本魚類学会奨励賞・日本魚類学会論文賞・日本魚類学会優秀発表賞の3つがあったが、2023年から新たに日本魚類学会賞が創設された。本賞は魚類学の分野において国内外で高い評価を受け、日本魚類学会の発展に大きく寄与した会員に与えられる。
(一社)日本魚類学会ホームページ
千葉県と魚類研究の関わり
千葉県は三方を海で囲まれた日本でも有数の海洋県であるとともに、多様な海洋環境が同じ県内で見られるため魚類研究に格好のフィールドとなっている。
たとえば、房総半島沖合には南から暖流の黒潮が流れ込み、北からは寒流の親潮が入り込むため、南方性と北方性の魚類の両方が同じ県内で見られる。また、太平洋岸沖合には日本海溝が、東京湾の湾口には東京海底谷などの深海が広がる一方で、浅い東京湾には干潟もある。
最近では、房総半島南部における環境DNAを用いた調査により、魚種間の相互作用(たとえば共同で狩りをするウツボとベラの仲間の関係)の強度が水温から影響を受けていることが発見され、地球温暖化による水温変化が、個々の魚種だけでなく魚類群集にも影響を与えることが明らかになった。
報道発表用記事