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更新日:令和5(2023)年12月8日
ページ番号:625367
高校生区分
千葉県身体障害者福祉協会理事長賞
筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部1年
西川 心望(にしかわ ここみ)
私は聴覚障害者だ。周りの友達も全員耳が聞こえない。だから聴覚障害者のことは人一倍理解しているつもりだ。では、他の障害のある人達のことはどうだろうか。私は、今まで同じ障害者として勝手な仲間意識があったと思うし、同じ障害者として、気持ちや障害のことを理解しているという傲りがあった。今年、障害のある人とない人の交流行事の実行委員会に参加し、実際に様々な障害のある人達と交流する中で、その考えが間違っていたことを実感した。
ほとんどの情報を目で得る聴覚障害者。ほとんどの情報を耳で得る視覚障害者。聴覚障害者と視覚障害者が情報を得る方法は真逆である。では、聴覚障害者が視覚障害者とコミュニケーションを取るにはどうしたら良いだろうか。私は今までこの疑問の答えを考えたことはおろか、この疑問が頭に浮かんだことさえなかった。だから実行委員会で実際に視覚障害者と話すことになった時に何もできなかった。私は相手の口形を読み取り、相手の話していることを理解することはできる。しかし、発音が不明瞭なため、自分の話したいことを相手に伝えるのに音声を用いることは難しい。筆談はできるが、視覚障害者とコミュニケーションを取るのは非常に難しい。
そのことに私は初めて気付いたのだ。頭が真っ白になり、有用なコミュニケーション方法を考え出すこともできなかった。そんな時に、「私が間に入ってお互いの話していることを伝えましょうか。」と、声をかけられた。雷に打たれたかのような衝撃だった。周りの人に助けを求める。そんな簡単なことさえ私は思いつかなかったのだ。それは自分が、視覚に障害がある人と関わることを何一つ考えたことがなかったからだろう。そんな自分が恥ずかしくなった。しかし、それと同時に他の障害について考えるきっかけにもなった。
聴覚に障害がある私ができる工夫とは何だろうか。「パソコンで周りの人の発言内容を文字化する」「マスクを外し、話すスピードを落とす」「口形をはっきりさせ、口形を読み取りやすくさせる」「積極的に筆談をする」私はこの実行委員会で多くの人に助けられた。その中には、私達聴覚障害者よりも重い障害がある人も多くいた。自分が大きな困難を抱えているにも関わらず、目の前にいる人を気遣える。これは誰にでもできることではないと思う。実際、助けてもらえたおかげで、私は遅れることなく話し合いについていけたし、自分の意見をスムーズに伝えることもできた。感謝してもしきれない。だから私も何かをしたいと思った。しかし、私には聴覚障害の壁がある。周りでは、車椅子をどのようにして押してほしいか、手を繋いでどこまで誘導するか、そんな会話が飛び交っていた。私には、咄嗟に必要な支援内容を全て聞いてそれを実行することは難しい。私に他の障害者を支援することは難しいように思われた。しかし、実行委員会を通して自分にできることをしたいと強く思うようになった。だから諦めずに考えた結果、自分の障害の特徴を活かすことを思いついた。交流行事には様々な障害がある人達が集まる。私よりも多くの困難を抱えて生活している人達が集まる。必要としている支援も多いと思う。その支援内容を考えるのが実行委員の役割だ。聴覚障害者は目でほとんどの情報を得るため、観察力が高く、そのような特徴を活かせると思った。実行委員会で私を助けてくれた人達は皆、私のことを、思いやりを持って接してくれていた。私もその思いやりを持てるように努力したいと考えた。まずは実行委員会で様々な障害のある人達と積極的に交流し、観察力を活かして必要な支援方法を探していこうと思った。そして、それを交流行事当日でも活かしていきたい。
これまで、私自身も障害があるのに、他の障害者のことを少しも理解していないことを認めたくなかった。そのことが頭をよぎる度に、「私にも障害があるから気持ちは理解できるはずだ」という根拠のない身勝手な言葉で誤魔化してきた。そのため、理解しようとする努力すらしてこなかった。実行委員会で障害の有無に関わらず助け合う姿を見たこと、そして、何より私自身が多くの支援を受けたことによって、ようやくその事実から逃げずに受け止めることができた。私はその経験を一生忘れない。そして、障害の有無に関わらず、目の前にいる人々に対する思いやりの気持ちを大切にし、自分から歩み寄ることを大切にしていきたい。
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