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更新日:令和6(2024)年11月26日
ページ番号:442012
全国的に土壌のリン酸は蓄積傾向にあります。千葉県においては、特に九十九里低地や河川沿いに広がる砂質土(褐色低地土)の野菜施設において可給態リン酸含量が高くなっており、土壌診断基準値の上限値である乾土100グラム当たり100ミリグラムを超える圃場が数多く認められます(図1)。
一方で、平成21年には、リン酸肥料の原料であるリン鉱石の輸入価格の高騰が問題となりました(図2)。日本ではリン鉱石のほぼ全てを輸入に頼っているため、リン酸肥料の価格が高騰しました。現在も、リン鉱石の輸入価格は上昇しており、30年間で約2倍となっています。今後も肥料価格が高くなることが懸念され、土壌の健全化を図るうえでも、土壌に蓄積しているリン酸の有効利用を進めることが重要です。
図1 県内野菜施設圃場のリン酸蓄積の実態
注:土壌機能実態モニタリング調査8巡目(平成25年から28年)における22圃場の測定結果
図2 リン鉱石輸入価格の推移
当センターでは、リン酸が蓄積した長生地域の砂質土の施設ほ場2か所で、リン酸減肥栽培の現地実証試験を実施しましたので、その結果を紹介します。
リン酸減肥栽培を行う前には、土壌診断が必要です。千葉県の可給態リン酸の土壌診断基準値は乾土100グラム当たり50から100ミリグラムです。試験圃場の可給態リン酸含量は、半促成栽培を実施したA圃場では乾土100グラム当たり803ミリグラム、抑制栽培を実施したB圃場では乾土100グラム当たり385ミリグラムで、土壌診断基準値の上限値を大きく超えていました。
リン酸減肥栽培区では、基肥のリン酸を無施用としました。窒素は、慣行どおりに施用しました(表1)。
表1 リン酸減肥栽培と慣行施肥栽培の施用成分量の比較
トマトのリン吸収の状態を把握するために、ピンポン球大に肥大した果房直下の葉柄汁液におけるリン濃度(以下、葉柄汁液中リン濃度)を測定しました。5段果房がピンポン球大に肥大する時期の葉柄汁液中リン濃度が、150から200mg/Lを下回った場合、追肥が必要であるとされています。リン酸減肥区においても、5段果房肥大時の葉柄汁液中リン濃度は、追肥の目安となる150から200mg/Lを超えており、リンが十分に吸収されていると考えられました(図3)。
図3 ピンポン球大に肥大した果房直下の葉柄汁液中のリン濃度の推移
注:半促成栽培 定植日10月3日、品種 穂木「麗容」、台木「キングバリア」
抑制栽培 定植日 7月24日、品種 「桃太郎75」
栽植密度は、いずれの作型においても株間30センチメートル、畝幅95センチメートル、畝間125センチメートル(10アール当たり2,660株)
慣行施肥区の可販収量を100とした時のリン酸減肥区の可販収量は、半促成栽培では112、抑制栽培では100でした。このように、トマトの可販収量は、リン酸減肥栽培と慣行施肥栽培ではほとんど変わりませんでした(図4)。
図4 トマトの可販収量
注:定植日、品種、栽植密度は図3に同じ
リン酸減肥栽培を行うことで、慣行施肥栽培と比べて半促成栽培では10アール当たり5,625円、抑制栽培では10a当たり39,925円の肥料代を削減できました(表2)。
表2 リン酸減肥栽培と慣行施肥栽培の肥料代の比較
可給態リン酸含量が診断基準値の上限値である乾土100グラム当たり100ミリグラムを超える砂質土の施設圃場では、トマトのリン酸減肥栽培が可能です。土壌診断を行った上で、トマトの収量を落とさず、肥料代を削減できるリン酸減肥栽培にぜひ取り組んでみてください。
初掲載:令和3年6月
農林総合研究センター土壌環境研究室
主任上席研究員 岩佐 博邦
電話:043-291-9990
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