ここから本文です。
ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農業・畜産業 > 普及・技術 > 千葉県農業改良普及情報ネットワーク > フィールドノート履歴一覧 > フィールドノート令和3年 > 微生物資材を使ってナシ白紋羽病の温水治療の効果をアップ!
更新日:令和6(2024)年3月6日
ページ番号:417861
ナシ産地では、改植後の若木が白紋羽病により枯死する事例が頻発しています。近年実用化された白紋羽病の温水治療技術は、従来使われてきた化学合成農薬に代わる対策技術として期待されています(写真1)。
これまでの研究により、温水治療の効果には、温水だけではなく、土壌中の拮抗菌も関わっていることが明らかになりました(Takahashi and Nakamura, 2020 )。そこで、市販の微生物資材を使って白紋羽病温水治療の効果をアップさせる方法を開発したので紹介します。
写真1.県内ナシ産地における白紋羽病温水治療の様子
拮抗菌として知られているトリコデルマ菌を含有する3種類の市販の微生物資材を、滅菌したナシ園土壌にそれぞれ基準施用量を混和し、白紋羽病菌を抑える力を室内試験により評価しました。その結果、トリコデソイル(アリスタライフサイエンス(株))を混和した土壌の白紋羽病菌を抑える力が最も強かったことから(図1)、トリコデソイルを温水治療技術と併用する微生物資材に選びました。
図1.3種類の市販の微生物資材をそれぞれ混和した滅菌土壌の白紋羽病菌を抑える力
注1)出典:Takahashi et al. (2020)
注2)評価値は0~30の数値で示される。13.9以上であれば土壌の白紋羽病菌を抑える力が強いとみなす
温水治療の処理範囲1.5メートル四方を深さ5センチメートル程度耕起した後、5グラムのトリコデソイルを水で2,000倍に希釈した溶液を1樹当たり10リットル、ジョーロ等で潅水します(写真2)。トリコデソイルは、温水治療時に土壌中に活発な拮抗菌が生息しているようにするため、温水治療を行う1週間前から前日の間に施用します。
写真2.微生物資材(トリコデソイル)を株元に処理する様子
現地ナシ園(黒ボク土)にて白紋羽病を発病したナシ6樹を対象に微生物資材と温水治療の併用効果を調べました。5グラムのトリコデソイルを2,000倍に希釈した溶液を1樹当たり10リットル施用し、1週間後に土壌を採取して、白紋羽病菌を抑える力を室内試験により評価しました。その結果、資材を施用した樹の評価値は9~23であり、白紋羽病菌を抑える力は、「やや弱い~強い」結果だったのに対し、資材を施用しなかった樹は4~9と、「弱い~やや弱い」結果でした。土壌を採取後すぐに45℃の温水を用いた温水治療を行い、翌年に枝挿入法により、地下部の白紋羽病菌の有無を調査しました。その結果、土壌の白紋羽病菌を抑える力が弱かった温水単独区の2樹で白紋羽病の再発が確認されたのに対し、トリコデソイル+温水区では3樹とも健全でした。このことから、資材の併用により土壌の白紋羽病菌を抑える力が向上し、温水治療の効果がアップすることがわかりました(表1)。
表1.白紋羽病発病ナシ樹に対する微生物資材(トリコデソイル)と温水治療の併用効果
注1)45℃の温水を地下30センチメートルの地温が35℃を超えるまで処理した
注2)評価値は0~30の数値で示される。13.9以上であれば土壌の白紋羽病菌を抑える力が強い
と判定する
注3)枝挿入法(30センチメートルの剪定枝を主幹周辺に挿入し、3~4週間経過後に抜き取り、
枝への白紋羽病菌の付着の有無により発病の有無を調査する)により評価した
温水治療技術は、現在、県内のナシ産地で普及しつつあります。実践した生産者からは、「治療した樹の樹勢が回復した。」、「白紋羽病で枯死する樹の本数が減った。」との声が聞かれています。今回紹介した技術を使うことにより、果樹園によっては、さらなる治療効果のアップが期待できます。
土壌の白紋羽病菌を抑える力は、果樹園ごとに異なることがわかっています。温水治療技術を導入されている方、今後、技術導入を検討されている方でご自身の果樹園土壌の白紋羽病菌を抑える力や微生物資材に関心がある方は、各地域の農業事務所を通してお問い合わせください。
初掲載:令和3年3月
農林総合研究センター
生物工学研究室
研究員髙橋真秀
電話:043-291-9996
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください