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更新日:令和5(2023)年12月7日
ページ番号:402833
キュウリ産地では、作ごとに土壌消毒を実施しているものの、ネコブセンチュウ被害がなかなか減らせないのが現状です。そこで、規模拡大を目指す生産者が取り組みやすい低コストで、栽培上のトラブル発生リスクが低い、新しいキュウリの栽培システムとして、土耕と簡易な培地耕を組み合わせる土耕・培地耕交互栽培を開発しました。
土耕・培地耕交互栽培(図1)は、秋~春期の土耕栽培を、畝の中央ではなく左右どちらかに寄せて定植しかん水同時施肥栽培を行います。その後、夏期は、土耕栽培と逆の部分にヤシ殻袋培地(ココバッグ、トヨタネ株式会社)を並べて培地耕栽培を行います。畝を崩すことなく土耕と培地耕を交互に繰り返し行うため(基本は3年間)、土壌消毒の回数を削減することができます。それに伴い収穫期間を延長でき、収量を増やすことができます(図2)。
図1土耕・培地耕交互栽培の模式図(左:秋~春期土耕右:夏期ヤシ殻培地耕)
図2土耕・培地耕交互栽培の栽培暦
注)消毒等は前作の後片付け、土壌消毒、畝立て、施肥等の作業を示す。新栽培法では、必要に応じ培地耕定植前に土耕畝へ低濃度エタノール等による処理を行い、培地耕栽培と並行して土壌還元消毒を行う。
夏期は土壌中に根が伸びないため、土壌中のネコブセンチュウ2期幼虫数は、秋~春期作前までには10分の1以下に低下します。また、畝に掛け流しされる排液中の硝酸態窒素量は後作の土耕栽培で利用されます。硝酸態窒素量は、1作合計で1平方メートル当たり9グラム以下なので、土耕キュウリの施肥量には大きな影響はありません。
ヤシ殻袋培地は、3年程度使用することが可能で、使用後には、施設内土壌に鋤き込むことができます。
作付け前の深さ0から20センチメートル及び20から40センチメートルのネコブセンチュウ2期幼虫密度と収量の関係を調査したところ、深さ20から40センチメートルの線虫密度が高いほど総収量が減少しました(データ省略)。土耕・培地耕交互栽培をしたとしても、秋~春期作終了時のネコブセンチュウ密度あるいは根の状態を確認し、深さ20から40センチメートルのネコブセンチュウ密度が生土20グラム当たり5頭以上の状態であれば、培地耕の栽培前に土壌消毒を行い、土壌中のネコブセンチュウ密度を低下させる必要があります。
土耕・培地耕交互栽培では、周年土耕栽培(土耕2作体系)と比べて、収穫期間を延長できるため、10アール当たり収量が増え、収入が175万円増加します(夏期の平均単価1キログラム当たり321円、春期の平均単価1キログラム当たり229円で算出)。支出は、収量が増加した分の収穫・出荷作業にかかる経費、ヤシ殻袋培地やかん水器具、専用肥料等で計114万円増加します。また、1年目又は2年目の培地耕前に土壌消毒を行う必要が生じた場合は、さらに13万円加わります。したがって、土耕・培地耕交互栽培体系は、周年土耕体系より、所得が10アール当たり47万円以上増加すると試算されます。
表1.土耕・培地耕交互栽培の収支(周年土耕栽培との差額)(単位:千円/10a)
注1)各月の単価は、「青果物卸売市場調査」の関東市場の千葉県産価格の5年(平成26年~30年)平均を使用
注2)交互栽培で使用する資材は、当研究室で購入した現物の単価(平成30年現在)を使用
注3)雇用労賃は、千葉県農業会議の令和2年度地域別農作業標準賃金(九十九里)から算出
注4)慣行栽培の経費は、野菜経営収支試算表(平成22年3月)の数値を使用
注5)支出は各項目ごとに端数処理しているため、項目の合計と小計は一致しない
土耕・培地耕交互栽培は1畝だけの小面積からでも始められる技術です。この技術が、生産性向上の取り組みに繋がれば幸いです。
初掲載:令和2年11月
農林総合研究センター
野菜研究室
主任上席研究員矢内浩二
電話:043-291-9987
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