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更新日:令和5(2023)年8月17日
ページ番号:7399
平成27年4月、東葛飾地域と印旛地域の広範囲(鎌ケ谷市、船橋市、白井市の生産者の3~5割)のナシ園で、1花そう当たりの花蕾数が少ない等の発芽不良が報告されました。これらの症状は平成21年に佐賀県や熊本県等で発生した発芽不良と酷似しており、温暖化による気温上昇が影響を及ぼしている可能性が考えられます。今回の発生では、摘果時に果実を選べないなどの問題が生じましたが、生産量の減少につながる大きな被害には至りませんでした。しかし、平成28年4月にも千葉地域などでも、この現象の発生が確認されており、今後も注意が必要です。
今回、県内地域で確認された症状は以下のとおりです。複数の症状が同じ花そうや枝で発生しました。
1)主に「幸水」の長果枝で発生しました。
2)1花そう当たりの花蕾数が少なくなりました(写真1)。
3)花蕾が少なかった花芽の内部には、糸くずのような枯れた器官が見られました。
4)花梗は短かくなりました(写真2)。
5)同じ枝であっても、開花が不揃いになりました。
6)果そう葉は正常に展葉しました。
写真1花蕾が少なかった(鎌ケ谷市)
写真2花梗が短かった(船橋市)
同一の症状と考えられる発芽不良は、平成21年に佐賀県や熊本県等の九州の広い範囲で発生し、佐賀県では発生面積が5パーセントになるなど大きな問題になりました。そこで、佐賀県や熊本県は、農水省委託プロジェクトでその原因を分析しており、今回はその成果を参考にして分析を行いました。
ニホンナシの花芽の休眠は、低温が必要な自発休眠と、自発休眠打破後に低温で引き続き休眠する他発休眠の2つに分かれています。秋冬期の気温上昇により、自発休眠の打破に必要な低温が不足し、打破する日の遅れや開花異常が発生する可能性が指摘されています(本條、2007)。千葉県内の発生地域では、自発休眠の打破に必要な低温要求量を十分に満たしていました。したがって、千葉県で発生した発芽不良は、低温が不足して発生する「眠り症」とは異なると考えられます。また、平成21年の佐賀県や熊本県でも低温要求量は十分に満たされており、発生した発芽不良も「眠り症」ではないと判定されています。
佐賀県や熊本県では、秋季の気温が高く冬季の気温が低いと発芽不良の発生が多くなることが報告されています。また、土壌が硬く排水性が悪い園や秋季の土壌水分の乾燥でも多くなることを報告しています。発生年の東葛飾地域(アメダス船橋)の気温は、11月上旬や下旬が平年より高く推移し、10月下旬~11月中旬の降水量は平年の半分程度でした。これらのことから、千葉県でも秋季の高温と乾燥で発芽不良が生じた可能性が考えられます。
また、自発休眠の打破後(2月中旬以降)の高温は、開花期を早める一方で、花芽の耐凍性を早期に低下させます。耐凍性が低下したところに、寒波の襲来などで気温が急激に低下すると花芽の基が枯死し、発芽不良の原因になることが報告されています。発生地域では、2月中旬以降の気温が高く推移しており、これにより花芽の耐凍性が早期に低下して発芽不良の原因となった可能性が考えられます。
熊本県では、「幸水」を中心に長果枝を結果枝として利用するせん定方法が行われています。長果枝は芽内の水分含量が多く耐凍性が低いことが報告されており、千葉県の発芽不良も「幸水」の長果枝を中心に情報が寄せられています。
発芽不良の対策は、研究段階にあります。その中で、熊本県等では、枝勢が中庸な枝を使用することや、10月から落葉する11月までの施肥を控えることを対策として挙げています。
初掲載:平成29年3月
農林総合研究センター
果樹研究室
研究員戸谷智明
電話:043-291-9989
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