ここから本文です。
ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農業・畜産業 > 普及・技術 > 千葉県農業改良普及情報ネットワーク > フィールドノート履歴一覧 > フィールドノート平成29年 > ビタミンコントロール技術を活用した肥育牛の肉質改善への取組~肉牛農家の総合的な経営改善支援~
更新日:令和5(2023)年8月17日
ページ番号:7398
千葉県では、「肉用牛ブランド力向上対策事業」で、生産者が行なう増頭や改良に対する取組を支援するとともに肉牛農家の肥育技術改善を進めることにより、県産肉用牛のブランド力向上を図っています。
この事業を活用して血液検査や飼養管理状況の調査、枝肉成績の分析を実施し、データをもとにビタミンA量の調整をするなど、肥育管理方法を改善して枝肉成績を向上させた管内肉牛生産者(A牧場)の事例を紹介します。
A牧場では、ゆとりある経営を目指して技術改善と収益性の向上を図ることと、後継者が経営に参画するため、経営内容を把握して管理できるようにしていくことが課題でした。そこで、「肉用牛ブランド力向上対策事業」を活用し、経営内容の現状把握や問題点の抽出、改善点の洗い出しを行いました。さらに、今後の経営状況を予測した経営戦略がたてられるよう、情報の収集・分析をし、関係機関の協力のもと毎月経営会議を開いて技術と経営双方から改善を行いました。
「日本飼養標準・肉用牛(2008年版)」によると、ビタミンAの要求量は、体重1キログラム、1日当たり42.4IU(DGが1.0キログラムを超える場合は66IU)です。そのため、250キログラムの育成牛では10,600IU、400キログラムの肥育前期牛では16,960IU、700キログラムの肥育後期牛では29,680IUが1日のビタミンA要求量となります。
平成26年度にA牧場の黒毛和種去勢牛の血中ビタミンA濃度を測定したところ、コレステロールはやや高めで順調に飼料摂取していることがわかりましたが、サシの入りをよくするために血中のビタミンAを制御したい肥育中期にビタミンAが下がりきっていない牛が見られました(図1)。そこで、日本飼養標準を参考に肥育前期の飼料中のビタミンA量を調整しました。
図1平成26年度の黒毛和種去勢牛の血液分析結果
ビタミンAの給与改善効果を確認するため、平成27年度は黒毛和種と交雑種の両方で血液検査を実施しました(図2、図3)。血中ビタミンA濃度は理想に近い推移を示しましたが、ビタミンAの摂取制限の影響から黒毛和種にコレステロール値が低く飼料摂取量の低下が推察される個体がいたため、肥育後期の食い止まりを防ぐためにも再度飼料中のビタミンA量を調整しました。
図2平成27年度の黒毛和種去勢牛の血液分析結果
図3平成27年度の交雑種去勢牛の血液分析結果
各肥育ステージの飼料給与メニューや1頭あたり牛床面積、導入と出荷の頭数や価格、牛の在庫状況、事故率、繁殖成績などをまとめて経営主、後継者、関係機関とで共有しました。飼料給与メニューについては、導入から出荷まで、どの時期に何をどの程度給与しているかを表にすることで、それぞれのステージでの栄養充足率を確認することができ、肥育期間中の1頭あたりの飼料価格も明らかとなりました。従業員も牛の栄養について理解を深めるため、この表を用いて研修を行いました。さらに、衛生管理等の改善点を抽出するために毎月コンサルタントと経営主、後継者、従業員全員、関係機関で農場を見て回り、牛の健康状態を確認するポイントを統一したり、ワクチンプログラムや消毒方法を見直したりしました。また、事故率が高いことや枝肉成績の伸び悩みは飼養頭数が過密であることに一因があると考え、適正な頭数規模に改善しました。
これらの取組の結果、最も多い月で16.9パーセントまで上昇してしまった子牛の事故率を、1.5パーセントまで低下させることができました。
写真1牧場スタッフ全員と関係機関とで現地検討会
平成26年の年間の枝肉成績を分析したところ、A牧場の交雑種去勢牛の枝肉成績は、千葉県平均に比べて枝肉重量は26.6キログラム小さく、3等級以上の割合は18パーセント低いことがわかりました。
改善への取組を始めるとともに、増体及び肉質向上を目指して出荷月齢の延長を試みた結果、A牧場の平成27年の枝肉成績は、平成26年に比べて枝肉重量は21.6キログラム大きく、3等級以上の割合は21パーセント向上しました。さらに、平成28年には出荷月齢は約1か月伸び、平成26年に比べて枝肉重量は52.4キログラム増加し、ロース芯面積は3.9平方センチメートル、ばらの厚さは0.6センチメートル大きくなりました。BMSNo.は0.5ポイント、3等級以上の割合は22.4パーセント向上し、1頭当たりの価格は266,417円上昇しました(表1)。
区分 |
枝肉重量 (kg) |
ロース芯 面積(㎠) |
ばら厚 (cm) |
BMS No. |
3等級以上 割合(%) |
単価 (円/kg) |
価格 (円/頭) |
出荷 月齢 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
H27 |
+21.6 |
+1.1 |
+0.2 |
+0.2 |
+20.7 |
+343 |
+199,197 |
+0.7 |
H28 |
+52.4 |
+3.9 |
+0.6 |
+0.5 |
+22.4 |
+383 |
+266,417 |
+0.9 |
後継者は毎月農場技術成績を取りまとめると同時に、月次合計残高試算表と貸借対照表から資金繰表を作成して資金の動き(キャッシュフロー)も把握するように改善を行いました。
牛の導入・出荷の頭数と平均金額、月齢毎の在庫頭数などの牛の動態を把握することで、1年以上先の出荷まで見通しが立てられるようになり、今後資金が必要な時期や削減すべき経費なども明らかとなるなど、課題も見つかり、改善点の洗い出しにつながりました。
肉質の向上に向け、ビタミンAのコントロール技術を活用するため、どの程度ビタミンAの摂取量が制御できているかを実際に検査して確認し、飼料設計にフィードバックできたことが、A牧場の技術改善の一歩となり、成績の向上に繋げることができました。
今後も生産技術、収益性、資金の動きに関する情報を収集して分析し、改善点を明らかにすることを継続し、さらなる経営改善につなげていくことが重要といえます。
写真2適正なビタミンコントロールにより飼料摂取量の低下は見られない
初掲載:平成29年3月
海匝農業事務所改良普及課
普及指導員有路優子
電話:0479-62-0334
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください