透析センターの役割
千葉県循環器病センター 腎臓内科部長 今村 茂樹
(日本腎臓学会 専門医/日本透析医学学会 専門医・指導医)
最新の治療を広めて地域の透析患者数をおさえてきた
【当センターの腎臓内科の取り組みについて教えてください。】
当センターに10床の透析室ができたのは2014年のことです。県立病院として透析治療に注力してきた東金病院の閉院にともなって、私も透析室とともに千葉県循環器病センターに移ってきました。
腎臓は「さまざまな臓器のコントロールタワー」だと、よく表現します。尿をつくる機能ばかりが注目されがちですが、実際には血圧調整や体内の環境を一定に保つなどの役割も担っています。
透析室では、腎臓の働きが低下した方の血液をきれいにするため、人工的に血液中の老廃物やあまった水分を取り除く治療を行います。いわば、腎臓の一部機能の代わりを機械で補ってもらうわけです。
治療に加えて、2008年ごろより腎臓病の進行(悪化)をおさえるために、地域の診療所の先生方への呼びかけや患者さんの紹介システムを作り、医療の質向上に努めてきました。
【具体的にはどのような呼びかけを行ってきたのでしょうか?】
世界で行われている最新の治療方法や、病状が悪化する要素などを地域の先生方に伝えてきました。腎臓病治療に効果的な薬が見つかったら、いち早く情報を届けたりしてきました。
この中には、自ら研究して治療に有効であることを発見した糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、痩せ薬としても知られる)も含まれます。当時のアメリカの糖尿病学会で優秀賞を受賞し、その後論文化しましたが、今では欧米で標準的な治療にもなっているものです。それでも今なお、腎臓病について解明されていないことが多く、治癒することが多くはないため、県内各地の先生方に情報を届けることが大切であると考えています。
新たな薬をいち早く治療で使っていただいたことで、透析が必要な患者数を減らすことにもつながったのではないかと思っています。
入院と通院、2つの役割を担い続けたい
【千葉県循環器病センターの役割はどのようにお考えですか。】
まず透析には、通院と入院の2種類があります。近隣に透析を受けられる施設が不足していることから、当院に通院される患者さんは年々増えており、大事な役割を果たしていると考えています。一方で、入院透析については、当センターで高度かつ専門的な医療が提供できることをもっと広く知らせる取り組みが必要なのではないかと。
実は脳外科や心臓外科とも連携しながら、入院透析治療を受けられる医療機関は、千葉県内に多くはありません。遠方の患者さんも入院なら安心して治療を受けられるはずです。今は県内の透析施設より他県の医療機関を紹介しているケースも少なくないようですが、県民のみなさまや診療所の先生方の選択肢の1つとして頼っていただける存在でありたいと思います。
私が着任した当時は「県立循環器病センターには敷居の高さを感じる。患者さんも受診しにくいようだし、こちらも紹介しづらい」と周囲の医療機関からご指摘を受けたこともあります。今後も、近隣の診療所を訪問したり、市民公開講座を開催したりして、誰もが受診しやすい病院だと理解してもらうように努めていきたいと思っています。
腎臓の異変は早期発見がとても大事で、治療が早かったら腎不全にならず、透析もしないで済む患者さんは決して少なくありません。当センターを受診するハードルを高く感じさせないというのは、県民のみなさんの健康を守ることにもつながると考えています。
早期受診の呼びかけと高度な医療の提供で健康を守りたい
【透析が必要となると、一生治療し続けるイメージをお持ちの方も多いかと思います】
透析をすると「人生が激変してしまうから、そんなのは嫌だ」とおっしゃる患者さんもいます。だからこそ、いかに透析が必要ないラインで止めるかが重要です。そのために私たちも持てる力を可能な限り投入しますし、患者さんご自身の生活改善も欠かせません。
それにもかかわらず、透析が必要な状態になった場合でも、週3回の透析を受けさえすれば「これまでと同じように自由な生活を送れるようにしましょう」と励ましながら一緒に治療に向き合っています。
繰り返しになりますが、予防には早期受診です。健康診断、または定期受診している医療機関で指摘を受けても、つい受診せず放置される方が少なくありません。しかし「無症状でも受診していただきたい」とお伝えしたいですね。
【頼もしい専門スタッフがそろっていますね。】
はい。今年度から透析看護認定看護師が1名おり、透析技術認定士が2名、腎臓病療養指導士も1名在籍しています。
さらに透析療法従事職員研修を修了したスタッフも、看護師6名と臨床工学技士2名おります。基本的にほぼ全員が何らかの資格を持っている状態で、透析治療に携わっているため、患者さんへより専門的なアドバイスができていると思います。
日常の食生活から治療における悩みなど、なんでも気軽に相談していただけたら幸いです。